4 大切なことは顔を見て

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(? !? …………!!???)  艶やかな黒髪に空色の目の、絶世の美女だった。しっとりとした白い肌に、潤んだ瞳、赤い唇がなんとも扇情的で、俺は目を離せなくて石のように固まってしまう。  いやその、顔の造形が変わっている訳ではないのだ。だが、なんだか目が離せないな、くらいの魅力を感じていた今までとは全然違う。違いすぎる。ようやく視界が開けた状態で彼女を見たような、そんな錯覚を覚えた。  そして、彼女は間違いなく、先日会った第5王女だった。 「えっ……な、何」 「あのね、髪の色とかを変えるだけじゃなくて、ほんの少し目立たないように認識阻害の魔法を入れていたの」  色を変えるだけだと何故かすごく目立ってしまうみたいでね、となんでもないことのように語る彼女に、これだけの美貌ならさもありなんと俺は頷いた。  俺はこの瞬間まで、この国の未婚子女にヴェールを被せる風習を憎んでいた。顔さえ見えれば、彼女を誤認することはなかったのに、と。  今は逆に感謝した。あのヴェールがなかったら、彼女を他の男が放っておくはずがない。とっくに誰かと婚約でもしていたに違いない……。 「ルディ、本当はね、今すぐ私を攫ってほしいの」  ニアは、俺に抱きつきながら、目を潤ませておねだりをしてくる。  ――柔らかい、可愛い、美しい。何より相手は世界で一番好きな女の子。  その破壊力たるや、未婚で、ニア以外と付き合ったことのない経験不足の俺に耐えられるものではなかった。 「この間会ったあんな男と、婚約したままでいるなんて耐えられない。早く私をルディのものにしてほしいの……」 「う、あの、ニア……」 「ルディ、やっぱり私の見た目、受け入れられない?」 「そんな訳はない! ニアが綺麗すぎて、あの、正直動揺してる……」  耳まで真っ赤になっている自信がある。見惚れている場合じゃない、俺には、俺にはやるべきことが……! 「嬉しい」  そう言って微笑む彼女は、俺の頬にキスを落とした。  俺の理性は崩壊した。  理性だけじゃなくて、体も膝から崩れ落ちた。 「ルディ!?」  頭に浮かぶのは――許してほしい、見捨てないでほしい、君が好きだ、誰にも渡したくない、結婚したい! 「――すまないニア、俺が全部悪かったんだ! 頼むから俺とこのまま結婚してくれ……!!!」  結局、パニックになった俺の口から出てきたのは、そんな情けない懇願だった。  しかも土下座スタイル。チューリップの花束も役に立ってない。  こんなことなら、二日前に指輪で真相を話した方がまだマシだったんじゃなかろうか!?  そばにしゃがんで俺と目線を合わせたニアは、大きな空色の目をぱちぱち瞬いた。  そして、真相を知った彼女は、鈴の音のような声で笑い転げた後に、そんな格好悪い俺を、そっと抱きしめてくれたのだった。
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