1 第五王女ファイローニア

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「――ルディ、どうしよう。私、結婚させられちゃう……っ」  深夜、私は寝室の毛布の中で丸まって、空色に輝く宝石に彩られた金の指輪に話しかける。  私の目の色と同じ色に輝くその指輪は、淡い光を放ちながら、彼の声を伝えてくれた。 「……どうしたの、ニア」 「婚約することになったの。身分のある相手で、家族も乗り気なの……」  泣きながら訴える私に、ルディは少し考えるように間を開けたあと、話をした。 「ニア。言いにくいんだけど、実は俺にも結婚の話が上がってるんだ」 「……うそ」  絶望で、そこから言葉が続かなかった。止めどなく涙が溢れてくる。 「ニア、俺が好きなのは君だけだ」 「……べ、別の人と、結婚するくせに……」 「しない! 俺が結婚したいのも君だけだ。相手が相手だから、すぐに断るのは難しいとは思うが、俺は兄弟でも下の方だから、なんとしてでも断ってみせる」  ルディの気持ちが嬉しくて、だけど悲しくて、私はぼろぼろと涙をこぼしながら訴える。 「……でもね、ルディは、私とはもう結婚できないかも」 「ニア」 「私ね、実は、ファニーチェク王国の貴族の中で、結構上の方の立場にいるの。ルディはきっと、エンジェルスガルド王国の貴族なんでしょう? でもね、それでも、お父様たちがきっと、今回の婚約を蹴ってまで、なんて許してくれないわ……」  例えルディがエンジェルスガルド王国の高位貴族であっても、同国の第六王子との婚約話が上がってしまった今では、私がルディに嫁ぐことは絶望的だ。下位貴族なら、尚更だろう。  そして、ルディは、私が王女であることを知らないのだ。 「ニア、駆け落ちしよう」 「えっ」 「俺の婚約はなんとしても解消してくる。そうしたら、ニアを攫いに行くよ。ニアは、身分がなくて平民になった俺でも、ついてきてくれる?」  いつもと違って、少し震えるような声音だった。私は、心の中から花が湧いてくるような気持ちでいっぱいになる。 「行く! 行かない訳がないわ、ルディ。私、ルディがいれば、どんなことでも頑張れるの」 「ニア……絶対に、絶対に迎えに行くから」 「うん、待ってる。ルディ、愛してるわ」 「俺も愛してる。ニア、また連絡する」  そういうと、通信が途絶えた。指輪の光がゆっくりと収まる。  私は、そっと唇に手を当てる。胸の奥が暖かくなるのと同時に、自分たちの口から『愛してる』という言葉が自然と出たことに少し驚いていた。  今までの子供だった自分達からは、『好き』という言葉が出たことはあっても、こんなふうに『愛してる』と言ったことはなかった。 「ルディ」  愛しい人の名前を口にして、指輪にキスを落とす。  だめかもしれない、結局は第六王子と結婚することになるかもしれない。  それでも、今はこの気持ちに浸っていたかった。
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