1 第五王女ファイローニア

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 婚約の話がでてから三日後、第六王子と面会する日がやってきた。  なんと、両親が私に婚約の話をしたときにはもう、第六王子はこの国に来ていたらしい。  朝から最後の抵抗とばかりにごねる私を、侍女たちは有無を言わせず磨く磨く。いつもの夜会の数倍、気合が入っているようだった。  第六王子の髪は赤で、目は私と同じ空色ということだったから、三日前から赤いドレス派と水色のドレス派でもめにもめていたが、どうやら水色のドレスに落ち着いたらしい。ルビーのネックレスとピアスを着ければ、相手の色に染まりまくった私の完成だ。  私はそもそもやる気がなかったのに、見た目が完成して第六王子と引き合わされた時には、体力的にもヘトヘトだった。  しかも、ヴェール越し。うちの国では、未婚の子女は異性の前でヴェールをかぶって顔を隠すのが基本なのだ。おかげでこちらからも、相手の顔はいまいちよく見えない。  隠すならここまで磨いた意味はなんなのかと侍女に問うと、「お顔がはっきり見えなくても、儚い美しさが垣間見えます」「首から下の美しさで、顔を見たいという欲を煽るのです」という訳が分からない返事が返ってきた。婚約者に対して欲を煽る意味はなんなの。素直に正面から仲良くさせて欲しい……いや、仲良くなる気がないから、これはこれでいいのか。 「初めまして、ファイローニア殿下」  初めて会った第六王子は、すらっと背の高い、美丈夫だった。多分、ルディと同じくらいの背丈。  燃えるような赤い髪はなんとかヴェール越しにも見えるが、水色の目まではいまいち確認することができなかった。  挨拶もそこそこに、私達は二人で王宮の庭園を歩く。  できれば私を気に入らないで欲しい、なんならこの場で婚約をそちらから破棄してほしい。  そんな話ができるかどうか表情を伺おうにも、顔がよく見えない。どうしたものかとつい俯くと、その仕草を見た第六王子が声のトーンを落として問いかけてきた。 「あなたも、急なお話に驚かれているのですか?」 「……と、言いますと」 「はい。私は視察だと言って連れてこられて、ここに着いた三日前に知りました」  私は目を丸くした。どうやら、心の準備ができていないのは、私だけではないらしい。  というか、この王子殿下は私の姿絵を見せられることもなく、騙し討ちのように連れてこられたのか。もしかして、私より可哀想なのでは?  王子殿下は、言葉を選ぶように思案しながら、私に問いかけた。 「あなたは、この婚約に乗り気……ではないように見受けられるのですが……どうでしょうか」 「それは……」  そのとおりだった。  私の心は今、ルディのものだ。ルディ以外と結婚なんてしたくない。けれど、それを言う訳にもいかない。 「……実は、私には慕う方がいるのです」  罪の告白をするかのような彼の囁きに、私は目を見張った。
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