2 第六王子の裏事情

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「父上!」  第5王女との面会の後、愛しの彼女に会うこともなく即座に帰国した俺は、帰るなり父上の執務室に直行した。 「おお、ルディじゃないか。どうだ、良い視察だっただろう?」  視察中の愛称で呼び、満面の笑みで迎える父に、俺は怒りを隠せない。  俺に好きな人がいると分かっていたのに、なんでこんな騙し討ちのようなことをしたんだ。 「父上。この度の婚約、結んで数日で大変申し訳ないのですが、解消したいのです!」  第5王女が理解のある良い女性でよかった。  これで無事に、俺達の婚約は公にされることなく解消されるだろう。 「……ん? ルディは彼女との婚約を解消したいのかい?」 「そうです。言ったはずです、私には好きな女性がいると」 「うん。だから、その好きな女性との婚約は嫌なのかな」 「……だから、彼女以外とは……あの、どういうことです」  なんだか胸騒ぎがする。なんだ、好きな女性との婚約とはどういうことだ。 「……ルディは、ファニーチェク王国の第五王女に、指輪を渡したんだろう?」  俺が指輪を渡したのはニアだ! 断じて、ファニーチェク王国の第五王女じゃない。 「違います、彼女ではありません」 「うーん、ちょっと待ちなさい。すまんね、皆しばらく下がってくれるか。あと、イェルハルドとブリサディーナを呼んで」  そう言って、父は執務中だった官僚達を退室させる。そして、王弟のイェルハルドとその妻ブリサディーナが現れた。 「おや、エディじゃないか」 「エドヴァルド様! どうでしたか、此度の視察は」  にまにましながら現れた二人に、俺は苛立ちを感じつつ、嫌な予感でいっぱいのまま、返事をする。 「どうもこうも。急に第五王女と婚約させられることになって驚きました。彼女と相談した結果、お互い嫌がっているということで婚約解消することにしましたが」  石像のように笑顔のまま固まった二人を、つい睨め付ける。  今回の件はおそらく、第五王女の叔母夫妻である、彼らが原因に違いないのだから。 「エドヴァルド様の指輪は、姪のファイローニアに渡したんですよね?」 「違います。私の指輪は、ニアに」  そこまで言って、俺は思考を止めた。  ニア……ファイローニア……ニア? 「私、あの子がこの指輪と同じものを持っているのを見せてもらいましたのよ」  そう言って、ブリサディーナは、イェルハルドから貰ったと思しき王家の指輪を見せる。 「私が勝手に見つけてしまって、問い詰めたのですけれど。そうしたら、ルディという男性から貰って、毎晩お話をしているというではありませんか。エンジェルスガルド王国の人のはずだから、バレたからにはそれらしき人を探してくれと、私おねだりされていましたのよ。指輪を見せたことを彼に言うなと言われていましたし、秘密の恋人のようでしたから、その……気を利かせたつもりだったのですけれど」  頭が真っ白になった。なんだ、何を言っているんだ……。 「エディ。今、王家の指輪の片方を持っていて、王族の正式な配偶者や婚約者でない者というと、お前の好きな女性しかいないはずなんだが」  どうなんだ、という叔父上の言葉が、頭に入ってこない。 「……ルディ、お前、好きな女性の身分どころか、見た目すら分からないのか?」  どんな会い方をしたんだと、呆れる父の声に、気持ちの糸が切れた俺は、その場に崩れ落ちた。
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