2 第六王子の裏事情

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「ニアは……その……下町でお忍び中に会った……赤い髪の女性で、ファイローニア殿下のような黒髪では」 「お忍び……あの子ったら、毎回皆で止めているというのに、もう。――私の母国は、貴族の女性の顔を露出させることに関して厳しいですからね。もし本当に下町で会ったのであれば、髪の色や目の色くらいは変えていたと思いますわ」  声や、なんなら認識すら……と呟く叔母の声は俺には届かなかった。  言われてみればそうだ。俺だって、ファニーチェク王国の下町に行くとき、髪の色も目の色も、声だって変えていたじゃないか……。 「顔を見て分からないものなのか?」 「あの国の未婚の貴族令嬢は、必ずヴェールを被っているんですよ、兄上」  父の純粋な疑問に、叔父が痛ましいものを見るようにこちらを見てくる。やめろ、もうやめてくれ……。 「まあ、状況は大体分かった。しかし、よくそれだけ何も知らない状態で、王家の指輪を渡したな……」 「兄上、これ以上追撃したら、エディがこっちに戻ってこられませんよ。意識が死のダグラス河の底に沈んでいます」 「しかし、これからどうするかな」  これから。その言葉に反応して、意識が戻ってくる。 「結婚します」 「……お前が、婚約解消の方向で話をつけてきたようだが」  愕然として固まる俺に、父が容赦ない言葉を重ねる。 「これで婚約継続を希望したら、話が違うと怒られてしまうんじゃないのかい?」 「間違いなく嫌われるでしょうね」 「あの子は『ルディ』様のことが大好きのようでしたから、怒るでしょうねぇ……怒ったところも可愛いんですけれど」  三者三様の追い込みに、俺は呆然とする。 「まあ、指輪があってよかったじゃないか。今日も話をするんだろう?」 「そうだそうだ、今日の逢瀬でその辺をすり合わせればいいじゃないか」 「そうですわね、怪我の功名とはこのことですわ」  そうだ、俺には指輪がある!  そう思うと視界が明るくなったような気がした。  俺は忘れていたのだ。  明日は新月で、月の力がうまく貯まらないここ数日は、指輪の力が使えないことを。  そして結局、返事を長く引き伸ばすことができず、ニアと直接言葉を交わすことができないまま、婚約継続の返事だけがファニーチェク王国に届いてしまったのだ。
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