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ちょっとしょっぱいチョコ
今日は二月十四日だ。
待ちに待ったバレンタイン。
僕は、りなさんにチョコを渡すことにした。
同級生で、僕の好きな人だ。
早起きして、時間をかけて作るんだ。
貯めたおこづかいで買った料理本を開く。
それに書いてある通りに、作り始めた。
作り方は、
①細かく刻んだビスケットをボウルに入れる。
②生クリームを加え、木ベラで全体を混ぜる。
③溶かしたチョコレートを加え、混ぜ合わせたら、手で丸くする。
④お好みでトッピングする。
という感じだ。
りなさんにあげるものだから、チョコレートショップで高級チョコを買ってきたんだ。
少し高い値段だったけど、喜んでもらうためだ。
どうってことない。
ビスケットも、有名なお菓子屋さんのを使った。
手で細かく砕いて、ボウルへ入れた。
「生クリームなら、泡立てなくちゃ!」
泡立て器でよーく混ぜる。
泡立つように。
だけど、いくらやっても泡立たない。
もう十分もあわだてたし、ここらへんでいっか。
ビスケットと加えて、混ぜる。
チョコも混ぜたら、丸くする。
でも、何だかさっきの生クリームの色がついて、ビシャビシャになっている。
手でお団子作りみたいに丸める。
無理やりぎゅぎゅうやって、冷蔵庫に入れた。
冷蔵庫に入れて、四十分後、出してみた。
「味見しようっと。」
食べて見ると、ちょっと違う味がした。
思ったよりも甘くない。
あれ?と思って使ったものを見てみた。
出しっぱなしの生クリームのパックを見てみると、家にあった牛乳のパックだった。
どうりで、全然泡立たなかったよ。
もう一回チョコを買いに行った。
またお金を使ってしまった…。
でも、気にしない。りなさんのためだ。
家に帰って、料理の続き。
さっき砕いたビスケット、溶かしたチョコと混ぜる。
丸めて、冷やした後、また味見してみた。
今度は、ちゃんと甘い味がした。
トッピングに、砂糖をまぶすことにした。
より甘くなるし、見た目がきれいだからだ。
甘いと、おいしい。
砂糖をつかみ、ふりかける。
指に砂糖がついていたからなめた。
「しょっぱ!」
塩辛い味がした。
砂糖の容器を見たら、塩とかかれていた。
砂糖と塩の容器は、同じ見た目なんだ。
じゃあ、チョコにも塩を…。
急いで塩を取り除き、砂糖をふりかけた。
今度は、なめたらちゃんと甘かった。
チョコはできた。
次はラッピングだ。
透明な袋に入れて、リボンで結ぶことにした。
リボンを切って、チョコを入れたらリボンで結んだ。
だけど、リボンが短すぎて、結ぶことができなかった。
残りのリボンは、もっと短い。
家に他のリボンはない。
リボンが売っているお店は少し高くて、もう自分のお金では買えない。
どうすれば…。
よし、誰かからもらおう。
優花がいいだろう。
隣の家の優花は、かわいいものなら何でも持っている。
その上、工作好きなのでリボンくらいあるだろう。
そう思って、家を出た。
優花の家のインターフォンを押す。
「優花いますかー?」
「いらっしゃい。どうした?」
優花が出迎えてくれた。
「リボンを使いたいんだけど、いい長さのがなくて。もらえないかな?
あと、ついでにかわいいリボンの結び方教えて!」
優花は、
「何に使うの?」
と聞いてきた。
「ラッピングだよ。人にあげるんだ。」
僕は、リボン結びに自信がない。
優花なら、教えてくれるだろう。
「いいよ。めちゃくちゃあるから。でも、その代わりに私が頼まれた買い物行って?」
えー……人の家の買い物かー……。
でも、わかったって言った。
ラッピングは大事だ。
見たときの印象を決める。
買い物なんて、たいしたことじゃない。
頼まれたのは、カレーの具材と夏野菜だ。
しっかり覚えて、スーパーに行った。
買い物が終わり、優花の家に品を届けて、家に戻った。
優花は、女子に人気がある、リボンを選んでくれた。
リボンは余裕を持って一メートルもくれた。
教えてくれた結び方をメモした紙を見ながら、ラッピングを完成させる。
お昼ご飯を食べてから出かけた。
チョコを持って。
いよいよりなさんに渡しに行くんだ。
一緒に、告白もするつもりだ。
りなさんの家に行った。
遊びに行ったことはないけど、りなさんがただいまと言って家に入っていくのを見たことがある。
インターフォンを押した。
ああ、いよいよだ。
ドキドキが止まらない。
「りななら、出かけましたよ。チョコを渡すって…。」
家の人がそう言った。
りなさんのチョコを渡す相手が、男の子じゃありませんように…。
りなさんは友達の誰かに渡すのかな。
じゃあ、同級生の家の近くにいるかも…。
そう思って、同級生の家をまわってみた。
学校周りやお店にも行ってみた。
でも、どこにもいない。
おかしいなと思って、川ぞいの広場に行った。
まだ近所の中で探していない場所だ。
川を眺めるりなさんがいた。
きれいな長い髪の毛が風に揺れている。
「りなさん!」
僕は声をかけた。
ところが、
「?何ですか?」
と返されてしまった。
よく見たら別の人だった。
「す、すみません!」
僕は逃げるように立ち去った。
どこにもいなかった…。
家に帰って、明日学校で渡そう。
もう夕方だし。
そう考えながら家に戻ると、家の前にりなさんがいた。
「り、りなさん、これ…。」
言葉に迷ったけど、チョコを差し出した。
「え…。あ、ありがとう!」
りなさんが驚いて言った。
「私も、あげる。」
りなさんが、何かを差し出した。
見てみると、チョコだった。
りなさんは、僕に渡すつもりだったんだ…。
僕がお礼を言おうとすると、
「わ、私、好きなの…!よかったらつきあってください…!」
それより先に、早口でりなさんが言った。
まさかの…告白!?
信じられない。
夢じゃないか。
うそじゃないか。
でも、りなさんはうそをつくような人じゃない。
「あ…ありがとう…。」
呆然として言った。
自分も、好きだと言わなくちゃ…。
「僕も…好きだよ…。」
僕は答えた。
恥ずかしいけど。
りなさんが思い切って言ってくれたんだ。
「!じゃあ…。」
「うん、つき…あおう…!」
朝からがんばったかいがあった。
一日が長く感じたよ。
時間もお金もたくさん使ったけど、どうってことない。
気持ちを伝えられたし、なんと、両想いってことがわかったんだから。
今日は、特別な一日だったんだから。
(終わり)
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