ちょっとしょっぱいチョコ

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
ちょっとしょっぱいチョコ  今日は二月十四日だ。 待ちに待ったバレンタイン。 僕は、りなさんにチョコを渡すことにした。 同級生で、僕の好きな人だ。 早起きして、時間をかけて作るんだ。 貯めたおこづかいで買った料理本を開く。 それに書いてある通りに、作り始めた。 作り方は、 ①細かく刻んだビスケットをボウルに入れる。 ②生クリームを加え、木ベラで全体を混ぜる。 ③溶かしたチョコレートを加え、混ぜ合わせたら、手で丸くする。 ④お好みでトッピングする。 という感じだ。 りなさんにあげるものだから、チョコレートショップで高級チョコを買ってきたんだ。 少し高い値段だったけど、喜んでもらうためだ。 どうってことない。 ビスケットも、有名なお菓子屋さんのを使った。 手で細かく砕いて、ボウルへ入れた。 「生クリームなら、泡立てなくちゃ!」 泡立て器でよーく混ぜる。 泡立つように。 だけど、いくらやっても泡立たない。 もう十分もあわだてたし、ここらへんでいっか。 ビスケットと加えて、混ぜる。 チョコも混ぜたら、丸くする。 でも、何だかさっきの生クリームの色がついて、ビシャビシャになっている。 手でお団子作りみたいに丸める。 無理やりぎゅぎゅうやって、冷蔵庫に入れた。 冷蔵庫に入れて、四十分後、出してみた。 「味見しようっと。」 食べて見ると、ちょっと違う味がした。 思ったよりも甘くない。 あれ?と思って使ったものを見てみた。 出しっぱなしの生クリームのパックを見てみると、家にあった牛乳のパックだった。 どうりで、全然泡立たなかったよ。 もう一回チョコを買いに行った。 またお金を使ってしまった…。 でも、気にしない。りなさんのためだ。 家に帰って、料理の続き。 さっき砕いたビスケット、溶かしたチョコと混ぜる。 丸めて、冷やした後、また味見してみた。 今度は、ちゃんと甘い味がした。 トッピングに、砂糖をまぶすことにした。 より甘くなるし、見た目がきれいだからだ。 甘いと、おいしい。 砂糖をつかみ、ふりかける。 指に砂糖がついていたからなめた。 「しょっぱ!」 塩辛い味がした。 砂糖の容器を見たら、塩とかかれていた。 砂糖と塩の容器は、同じ見た目なんだ。 じゃあ、チョコにも塩を…。 急いで塩を取り除き、砂糖をふりかけた。 今度は、なめたらちゃんと甘かった。 チョコはできた。 次はラッピングだ。 透明な袋に入れて、リボンで結ぶことにした。 リボンを切って、チョコを入れたらリボンで結んだ。 だけど、リボンが短すぎて、結ぶことができなかった。 残りのリボンは、もっと短い。 家に他のリボンはない。 リボンが売っているお店は少し高くて、もう自分のお金では買えない。 どうすれば…。 よし、誰かからもらおう。 優花がいいだろう。 隣の家の優花は、かわいいものなら何でも持っている。 その上、工作好きなのでリボンくらいあるだろう。 そう思って、家を出た。 優花の家のインターフォンを押す。 「優花いますかー?」 「いらっしゃい。どうした?」 優花が出迎えてくれた。 「リボンを使いたいんだけど、いい長さのがなくて。もらえないかな? あと、ついでにかわいいリボンの結び方教えて!」 優花は、 「何に使うの?」 と聞いてきた。 「ラッピングだよ。人にあげるんだ。」 僕は、リボン結びに自信がない。 優花なら、教えてくれるだろう。 「いいよ。めちゃくちゃあるから。でも、その代わりに私が頼まれた買い物行って?」 えー……人の家の買い物かー……。 でも、わかったって言った。 ラッピングは大事だ。 見たときの印象を決める。 買い物なんて、たいしたことじゃない。 頼まれたのは、カレーの具材と夏野菜だ。 しっかり覚えて、スーパーに行った。 買い物が終わり、優花の家に品を届けて、家に戻った。 優花は、女子に人気がある、リボンを選んでくれた。 リボンは余裕を持って一メートルもくれた。 教えてくれた結び方をメモした紙を見ながら、ラッピングを完成させる。 お昼ご飯を食べてから出かけた。 チョコを持って。 いよいよりなさんに渡しに行くんだ。 一緒に、告白もするつもりだ。 りなさんの家に行った。 遊びに行ったことはないけど、りなさんがただいまと言って家に入っていくのを見たことがある。 インターフォンを押した。 ああ、いよいよだ。 ドキドキが止まらない。 「りななら、出かけましたよ。チョコを渡すって…。」 家の人がそう言った。 りなさんのチョコを渡す相手が、男の子じゃありませんように…。 りなさんは友達の誰かに渡すのかな。 じゃあ、同級生の家の近くにいるかも…。 そう思って、同級生の家をまわってみた。 学校周りやお店にも行ってみた。 でも、どこにもいない。 おかしいなと思って、川ぞいの広場に行った。 まだ近所の中で探していない場所だ。 川を眺めるりなさんがいた。 きれいな長い髪の毛が風に揺れている。 「りなさん!」 僕は声をかけた。 ところが、 「?何ですか?」 と返されてしまった。 よく見たら別の人だった。 「す、すみません!」 僕は逃げるように立ち去った。 どこにもいなかった…。 家に帰って、明日学校で渡そう。 もう夕方だし。 そう考えながら家に戻ると、家の前にりなさんがいた。 「り、りなさん、これ…。」 言葉に迷ったけど、チョコを差し出した。 「え…。あ、ありがとう!」 りなさんが驚いて言った。 「私も、あげる。」 りなさんが、何かを差し出した。 見てみると、チョコだった。 りなさんは、僕に渡すつもりだったんだ…。 僕がお礼を言おうとすると、 「わ、私、好きなの…!よかったらつきあってください…!」 それより先に、早口でりなさんが言った。 まさかの…告白!? 信じられない。 夢じゃないか。 うそじゃないか。 でも、りなさんはうそをつくような人じゃない。 「あ…ありがとう…。」 呆然として言った。 自分も、好きだと言わなくちゃ…。 「僕も…好きだよ…。」 僕は答えた。 恥ずかしいけど。 りなさんが思い切って言ってくれたんだ。 「!じゃあ…。」 「うん、つき…あおう…!」 朝からがんばったかいがあった。 一日が長く感じたよ。 時間もお金もたくさん使ったけど、どうってことない。 気持ちを伝えられたし、なんと、両想いってことがわかったんだから。 今日は、特別な一日だったんだから。 (終わり)
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!