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「老師が、遅いからー」
あとちゃんと服着てください、と言えば「だってほら、暗いのにひとりぼっちで寂しがってるかなーと思って、服着る時間も惜しくて急いで戻ってきたんですよ」なんて心にもなさそうなことを言われた。
「べつに、寂しくなんかないです」
……嘘だった。空っぽの白い布団を見て、早く戻ってきてほしいなと思っていた。
「そう? 星黎も親離れですかねえ、早いなあ。俺の方が寂しくなりそうです」
「……だってほんのちょっとの、湯浴みの時間だけですよ? 老師、私のこと半日だって放っておいたことないじゃないですか」
さすがに過保護すぎるのではと常々思っていた。星黎の知らない、なにか重要そうな用事で山を下りることがあっても、絶対に日が沈む前には帰ってくるようなひとだ。……そんなひとに絆されているから、気分が落ち込んだときに老師がそばにいないだけで寂しい、なんて思ってしまうんだ。
全部老師のせいだ。老師が悪い。
言わないけど。そんなの全部、言わないけど。
「ん~? 黙っていても俺にはわかるんですよね。老師のこと大好き、って顔に書いてありますよ?」
「~~~!」
にこにこ、いや、にやにやしながら顔をのぞきこまれて、星黎は思わず飛び起きて自分の布団へと逃げた。
も、もちろん、大好きではありますが。そして同じくらい老師も自分を好きでいてくれている、と感じてはおりますが。控えめに言っても溺愛されている自覚はあります。が、それをいちいち言葉に出されるのは恥ずかしい。
「あー、ところでね、星黎? 俺、以前からずっと君に言わないといけないなあと思っていたことがありまして」
「ふぇ……?」
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