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珍しく真面目な雰囲気を醸す老師に、首を傾げる。貼り付けたような笑みは消え、口角は上がっていない。
真顔、だ。珍しい。なんだろう。
思わず老師の向かいに座りなおす。自然と背筋が伸びた。緊張、する。
「実はね、俺、もうすぐ死ぬんですよ」
「……ぇ?」
言われたことが理解できなかった。このひとは今なにを言った?
オレ、モウスグシヌンデスヨ???
「ぅ……え?? じょ、冗談?」
悪質な揶揄いだと思った。冗談だと。
だって老師は、今日も元気そうに、いつもと変わらない一日を過ごしていた。髪の毛は艶やかに潤っているし、目にも生気が溢れている。顔の血色も悪くないし、はだけたままの浴衣から覗く裸体にも程良く筋肉がついていて、どう見たって健康的な、若くて綺麗なお兄さんだったから。とても死が迫っているひとには見えなかった。
「でも寿命は仕方がないんですよ。誰にだってある制約ですから。どうしても、俺は星黎のことを残して死んでしまう」
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