2 茉莉花の午後

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「だってぇ、仮に1000年生きるとしても俺もう折り返しは超えてるでしょう? 俺は君が死んじゃうまでは一緒にいられないからね、ちゃんと俺離れしなさいよって教えてあげないと可哀そうかと思って」 「さすがに言われなくても分かってましたよ老師のばか! 300年のことを『もうすぐ』なんて表現するひと、老師以外にいないと思います!」 「え〜」 「せめて『いつか』って言ってくれたらよかったのに。泣いて損した気分です」  怒気を露わに嘆いても、ぽかぽかと背中を叩いても、老師は「あはは、年寄りに肩たたきですか? 孝行娘ですねえ」なんて言って真面目に取り合ってくれない。  これからも、こんな日常が続けられる。大好きな老師と一緒に生きていける。  別れが今すぐでなかったことは大変喜ばしい。「もうすぐ」でなくて本当に良かった。  でも、いつか明確に訪れる「その日」を思うとやっぱり気が重くなってしまうのだ。300年後。星黎はまだ310歳とか、そこいらで。それ以降の700年とか、それくらいの長い生は老師のいない世界で、ひとりで、もしくは他の誰かと生きていかなくてはいけないんだ。 「…………」  そんな後のこと、正直わからない。老師のいない世界なんて、想像もできない。  今からそんな先のことを考えてみても仕方がない気がした。「その日」が訪れるまでにはまだまだ、時間はたっぷりあるわけだし。  そう思えば、心は次第に落ち着いてきて、星黎はへらりと笑う。 「老師って肩凝るんですか? 鍛えてるのに」 「それとこれとは別でしょう。というか星黎に労わってもらえてるだけで嬉しいです。俺のこと、いっぱい叩いてくれていいんですよ」 「その発言はなんだか変態っぽいです」 「へ、変態!? 君は育ての親になんてことを。肩たたきの話ですよ!?」 「ふへへ。わかってます。老師のためなら、私、肩たたきでもなんでもしてあげます」  ただ、この幸せな日々を大切に過ごそう。心の中で、固く誓った。
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