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3 白百合と深愛
そういえば、あの夜に見た百合は、匂いなんてまったくしなかったな。
そのことに気が付いたのは、星黎と共に過ごし始めてかなりの月日が流れた頃だった。
茅屋のそばに自生していた白百合を見つけたので、戯れに一輪挿しに生けてみたことがある。日の当たる窓辺に飾ってみたら、部屋中が甘い白百合の香に包まれた。
いい匂い、と星黎が満足そうだったので「君の花紋ですよ」と教えたら、さらに嬉しそうな顔をした。白百合を気に入ったようだ。
窓辺まで運んだ椅子に腰かけては、一日中にこにこして白百合を眺めていたものだった。艶めく銀髪を背に垂らした少女が白百合を愛でる様子は、非常に愛らしいものだ。見ているこちらさえ、自然と笑みがこぼれる。
さながら一枚の絵画のような光景。
少女の腰かけた何の変哲もない無骨な椅子ですら、なにやら価値の高い調度品に見えてくるのだから不思議なものだ。
星黎は、草原に咲いた一輪の白百合から生まれた。
愛しい子と出会った「あの場所」がどこにあるのか。老師と呼ばれる青年には、未だにわからないままだ。
あの場所を見つけたのは、偶然の産物としか言えない。だからこそ、自分たちは運命的な出会いをしたのだと、確信している。
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