3 白百合と深愛

4/8
前へ
/36ページ
次へ
 光に惹かれ、青年は草原を走った。進んでいくうちに、見晴らしの良い草原がいつの間にか丈の高い草の密集した沼地に変わり、更には流れの速い川となった。青年は濁流に攫われまいと足の指にまで力を込めて、懸命に水をかき分けて川を横断する。  なんとか岸に上がると、また穏やかな草原が横たわっていた。川を渡ったというのに、不思議なことに衣服は少しも濡れていなかった。光は、もう間近に迫っている。青年は駆け足で光へと近づいていく。  それは、一輪の白百合だった。  草原の真中に、一輪だけ白百合が咲いていた。  ひときわ美しい白百合だった。たった一輪だけでも、さきほど群生を見たときと同じだけ青年の心を癒してくれる不思議なあたたかさがある。  青年はぼんやりと惚けたまま白百合を見つめ、ふと違和感を覚えた。花びらの中央になにかある。その小さななにかをよく見ようと近づき、その正体をみとめた瞬間に、青年は思わず「あっ」と声を上げた。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加