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美しい白百合の中に、花びらにくるまれて眠る赤子がいたのだ。
羽のように軽い、小さな小さな生命。
簡単に手中に収まってしまう、儚さの具現のような、いのち。
まさか。そんな。
青年は目を瞠った。
花に咲く小さい小さい幼子。まさか、美花族の子……? もう何年間、同族と出会っていなかったと思っているのか。
そこそこ長生きの青年でも、生まれたばかりの同族を見るのは初めてだった。信じられない思いで、そおっと、両手で掬うように幼子をみずからの手に入れる。手のひらに乗せた子は、ほとんど重さを感じないのに、あたたかくて。
ああ、確かに生きているのだと、伝わってくる。
光だ。
まぶしくて、輝いていて、惹きつけられる。
巡り合えたことは運命だと、そう思った。青年は、この白百合に咲く幼子を、我が胸に抱いて、慈しみ育てようと固く決意した。
それこそが、失意の底にある自分の唯一の生きる意味に思えたのだ。
絶滅の憂き目に瀕している我らの、新しい灯を、つながなくては。未来に。
この子は、青年の無限の愛を享受し、立派な大人に成長して、いつか彼のもとを巣立ち、未来へと命をつないでいく。
そのためなら、青年はなんだって出来る気がした。
すべては、麗しき美花族を絶やさないために。
美花の希望、俺たちの光。
「俺の可愛い、愛娘」
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