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青白い月の光が静かな森に降りそそぐ。深緑に覆われた大地に、豊かな色彩を誇る野の花たちも、月の支配する夜にはひっそりと眠っている。
月明かりに染められた花畑では、草の上の一粒の露だけが光を受けてきらめいていた。
涼やかな夜風が柔い花びらを撫で、甘い芳香がふわりと薫る。揺らめいた草の上の露が、音もなく滑っていく。
草露は月の光をたっぷりと吸い込みながら、滑らかな草の表面を落ちていく。
けれども、それが地面へと落下することはなかった。
露の重さで首を垂れた草の下に、す、と差し出された両の掌。貝に包まれた真珠さながらに、露は少女の掌に収まった。
星黎は、お椀の形のようにした掌に唇を寄せて、すくったひとしずくの露を口に含んだ。こくり、と白い喉が上下する。
甘い、と星黎は思わず呟いた。
幼い頃からずっと親しんできた故郷の山の水とは違う。かといってこれまでに立ち寄ったどこの水とも違っている。ほんの少し草の味がして、甘くて、清らかな味がする。
「月の雫は甘くて美味しいでしょう」
背後から声がかけられた。優しくて甘やかな男性の声だ。
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