1 月の夜、花畑の添い寝

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 振り返るといたずらっ子のような笑みを浮かべた最愛のひとと目が合った。うん、と素直にうなずきながら、星黎は思う。  ずいぶん、遠くまで来たものだ。老師(せんせい)と、ふたりで。  花畑に並んで横になると大きな月が頭上に見えた。妖精がこっそりと集まって、楽しく踊っていそうな夜だった。 「おいで」  差し出された左腕に頭を乗っけて腕枕をしてもらうと、老師の匂いに包まれて安心する。幼いころから幾度こうして夜を明かしただろう。星黎にとっての至福の時間。何にも代えがたい、完璧な時間。  怖いものなんて何もない。ずっと、この時間が続けばいいのに。  本当に不死だったら、良かったのに。 「……。好きだよ、老師」  置いていかないで。  言えない言葉を飲み込んで、微笑みを返す。  辺りが急に暗くなったので空を見上げると、流れてきた雲に覆われて月が陰っていた。薄い雲越しの朧月も、星黎は好きだったが、今はもっと明るく私たちを照らしていてほしいと思った。  寝返りをうち、もぞもぞと体勢を変えて老師の身体にしっかりと抱きつく。目を閉じて、老師の身体の奥でとくん、とくんと規則正しく鼓動する音に耳を澄ませる。  大きな手であやすように背中を撫でられた。  幸せで満ち足りた瞬間なのに、こんなにも切ない気持ちが胸のあたりに渦巻いているのは、きっと。  星黎たちの旅の終わりが近づいているのを知っているから。  どんなに美しく咲き誇る花たちも、みんないつかは枯れて土へと帰るときがくる。やがては私たちにも。  若々しく麗しい美貌を持った、この愛おしい老師にも。  もうすぐにそのときはやってくる――。
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