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確かに星黎に比べれば老師は年寄りの部類に入るかもしれないが、老いのない美花族にとって「年寄り」という概念はあまり意味をなさない。
遠い未来で、星黎を置いて先にいってしまうことに変わりはない、のだけれど。
いくら先のことだと知っていても、星黎はそのことを思うたびに胸がきゅぅ~っと締め付けられる感覚に襲われる。
「……」
星黎が物思いに沈んでしまったのを察したらしく、老師は向かいから腕を伸ばして、がしがしと髪の毛をかき混ぜるようにして撫でた。
「……髪の毛ぐちゃぐちゃになるー」
「ははは。俺があとで綺麗にしますよ。星黎は小さい頃から、俺に死なないでぇとか、長生きしてぇとか言って、めそめそ泣いていましたよね。小さなおててで、俺の裾掴んできてさ。可愛かったなあ」
「……いまも」
「うんうん、今ももちろん可愛い! 愛しい俺の子。美花の光。大丈夫、大好きですよ、星黎」
「私も、大好き」
立ち上がって、座ったままの老師の背中に抱きついた。うまく話をそらされているのはわかっていたけど、老師の柔らかな声でそんなことを告げられると、心がぽかぽかして、安心してしまうのだ。
「ああ、そういえば。君が初めて寿命という概念を知ったときは大変でしたね。いつか俺が先に死んじゃうんだよって言ったら、みるみる涙が溢れてきて、あんまり悲しそうに泣くものだから、俺まで悲しくなってきて」
「あれは、老師が悪いです」
星黎はふてくされたように言う。あれは別に、寿命という概念を初めて知ったというわけではなかった。生き物がいつかいなくなってしまうということは、すでになんとなく知っていた。そうではないのだ。
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