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私の中の貴女と貴女の中の貴女
天夜透子の顔をしたその人。
意識を取り戻していたの?だとするなら。
その中に友里花の心はいるの?
貴女の中に私は、いるの?貴女は誰?私は?
ボーッとしている私のそばに透子は、真っ直ぐ近寄ってきた。
「大丈夫?ごめんなさいね。私の娘がキツい言い方をして。普段はジコチューではあるんだけど、ここまで気は強くないんだけどねぇ。」
「ちょっと!お母さん!なによ、ソレ!誰のために私がこんな役割してると思うのよ。お母さんは病み上がりだし、お父さんと友月は頼りないし。私が言うしかないじゃない!」
さっきまで敏腕デカみたいな鋭い目つきとクールな口調だった祐子が急に子供みたいに拗ねる。
「はいはい。感謝してます。あなたがこんなにしっかり者だったなんてビックリしたわ。」
透子さんはそう言って優しく娘を見つめる。
ねえ、貴女は誰?貴女の中にいるのは誰?私は誰?わたしは………
「友里花!帰るわよ!」
友里花の母親の声が私の考え事をぶった切る。
「………」
「何やってんのよ!さっさと帰りましょ!こんなの気分が悪いわ!」
現れると思っていなかった天夜透子の姿に流石に気まずいのか視線をそらしながら友里花の母は友里花をせかす。
「お帰りになるなら、お一人でどうぞ。こんな顔色が悪い子を返すなんてできないわ。第一、あなた、子供をダシにして脅迫まがいのことしてたなんて。そんな人に友里花ちゃんを渡せません。警察なり児童相談所なりに通報させていただきますから!」
「け、警察?何ふざけたこと言ってるの?大事にされて困るのはあんたたちみたいなお上品な人でしょ?」
「自分の子どもたちと同じ年頃の子供を守れないことより困ることなんて私にはないわ。」
「……友里花!アンタは?私と帰るわよね?」
ボンヤリと友里花の母親の顔を見る。気の強いことを言っても、その表情は怯えて引き攣っている。
なんて愚かな人なんだろう。この人を見ていると童話を思い出す。
橋の下の水面に映った自分の姿を見る犬の話。
水面の犬は自分が咥えている肉よりも大きな肉を咥えているように見える。だから脅してその肉も奪ってやろうと吠える。
当然、自分の肉は橋の下の川に落ちてしまう。
なぜ、他人のものが欲しいの?なぜ今持っているものを大切にしようとしないの?
変わらないんだね、あなたって人は。
「私は、帰らない。」
目を見て告げると友里花の母は
「勝手にしなさいよ!あんたなんか勝手に野垂れ死ねばいい!」
と捨て台詞を吐いて、部屋を出ていこうとした。
「ごきげんよう。」
玄関で私達を出迎えてくれた美女が、笑顔で友里花の母を追い立てた。
母親は振り向きもしないで逃げるように出ていった。
「お義姉さん、お手数かけました。」
透子の姿をした人がその美女に頭を下げる。
お義姉さん?
この人は誰?透子の中の人はこの人を知っている。私は知らない。わからない。
知らず知らずに私は声に出していた。
「私は、誰?誰なの?友里花ちゃんはどこ?貴女は?」
「……?友里花ちゃん?」
「友里花!?どうした?」
「トーコさん、ゆづき君、ユースケさん、ユーコちゃん、私は、透子でしょ?天夜透子でしょう?貴女は誰なの?私は?」
頭が痛い。よろける私の身体を友月君が支えてくれた。覚えているのはそこまで。
私の意識は真っ暗闇の中に飲み込まれた。
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