良人と書いて夫と読むらしい

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 個人情報が厳しくなってから病室の前に前ならあった入院患者の名前は書いていない。  でもあまり悩むことはない。天夜透子、私が入院したとするならば、私の意思云々はともかく、病室は個室、あるいは特別室だろう。  私自身は平凡なサラリーマンの妻と変わらない生活と金銭感覚で生きているつもりだ。  だが、「天夜」という名前はちょっとばかり普通ではない。    不動産業界やホテル業などたくさんの分野の会社をを取りまとめる総合企業。    否応なくムーンリットグループの創業者一族の一員だ。  実際夫もグループのある会社の役員をやっている。  個室のあるであろう方向に歩いていると、その先の病室の前によく知る人物がボーッと立っている。息子の友月だ。友月はこちらに気付くと、足早に近づいてくる。 「友里花!無事だったのか?良かった!」  泣きそうな顔で私の両肩を掴む。 「友、……天夜君。あの…私……」 「びっくりしたよ。母さんが女子高生と事故にあったって聞いて。それが友里花だって……」 「ごめん……。あの……お、お母さんの具合は?」 「ああ、何箇所かの骨折と打撲。脳とかにはダメージはないみたいなんだ。ただ、目を覚まさなくて。医者は外傷は意識をとりもどさないことには関係ないって言うんだけど。」 「……そうなんだ。」  もしかして、意識が友里花ちゃんの中に入ったままだから? 「あの、顔を見れないかな?わ、私、助けてもらった…らしくて。」 「あー、うん、まだ包帯だらけだし見たらショックを受けるかも。今ねーちゃんと親父がそばにいるんだけど…。ねーちゃん、取り乱して泣いてるし。」 「そうなんだ……。」  ごめん、祐子。心配かけて。  その時病室のドアが開いた。 「友月?誰かいらしたの?」  中から娘の祐子と夫が顔を出した。 「あ、学校の友達。その、たまたま会って……」と友月は言う。  もし、友里花ちゃんをかばったせいで母親が目覚めないとか思ったら祐子が益々取り乱すと思ったのかもしれない。  さり気なく友里花ちゃんを隠す。しかし、夫は友里花ちゃんの姿を見てしまった。 「君……、何のようだ?帰ってくれ。今は家族以外面会謝絶だ!」  普段の友祐さんと違って苛立ったような怒ったような口調で友里花ちゃんに言い放つ。 「な!お父さん!なんだよ!その言い方!」  友月は父親に詰め寄る。このままでは喧嘩になってしまう。これは出直したほうが良さそうだ。 「すみませんでした。ごめん、天夜君、またね!」  自分の病室にUターンする。  走ると怪我をした腕のあたりが痛むが幸い足は大丈夫。  早く自分の病室に帰ろうと思ったら急に後ろから誰かに抱きしめられた。 「友里花、ごめん。親父、母さんの事故で気が動転してるみたい。」 「ゆ、友づ……いや、天夜君、何してるの?」 「いつも通り、『ゆづき』でいいよ、友里花。」 「え………」 「母さんの怪我はショックだけど、絶対にすぐに目覚めるし。こんなことで俺の気持ちは変わらないから。」 「ゆ、友月、くんの、気持ち?」 「うん。俺は友里花のことが大好きだってこと。」  な、なんですと???? 野球バカだと思っていたらいつの間にか恋しての?うちの息子。  ん?ちょっとまてよ?  もし、もし、友里花ちゃんのお母さんの話が本当なら。え?  二人は異母兄妹?  なにやってんのよ!友祐さん!  今朝までの平凡である意味退屈な日々がたった数時間でファンタジーで韓流ドラマみたいな展開になってますけど!  
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