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第66話「どんな声ひとつだって、おれのものだ」
(UnsplashのKarina Vorozheevaが撮影)
佐江の唇のひらいた隙間に、清春は当たり前のように舌を滑り込ませてきた。
ゆっくりと、佐江の唇の裏側を清春の柔らかい舌が舐め上げる。佐江はそれを6年前と同じように夢中で受けた。
清春の唇はひんやりしているのに、舌先は熱く、ゆるやかに佐江を苦しめてゆく。
「…あっ」
長いキスの間に、岡本佐江は初めて甘い吐息を漏らした。清春がそれを聞いてくすっと笑った。
「わるい、キスが長かったな」
そういうと、ゆったりと清春は佐江のドレスのジッパーを降ろし始めた。
「キヨさん、ここでは……」
佐江がゆるく身体をくねらせると、清春は空いている手の長い指を佐江の唇に乗せて言葉を止めてしまった。
「おれだって、このままきみをコルヌイエのスイートに引きずっていって朝までめちゃめちゃにしてやりたいよ。だけど、そういうわけにいかないだろ」
肩から黒いタンクドレスを脱がせかけ、佐江の首筋に鼻をこすりつけた。そのまま佐江の首筋を唇ですべり、三連のパールを上手によけながら鎖骨のくぼみに舌を這わせた。
佐江の身体に、震えが走る。
背筋を駆け上がってゆく白光がうなじを抜けて、爆発した。
「きよ、さんっ」
「こらえろよ、佐江。このドアは分厚いけど、きみのそんな声は誰にも聞かせたくない」
清春は大きな手で佐江の唇をふさぎ、自分は身体をかがめて半分脱がせたドレスの隙間から、まろやかな乳房を引っ張り出した。
冷たい外気が当たって、佐江の乳首がピンとたつ。
清春は薄暗い照明の下で小さな乳房と形の良い乳首をじっと見つめて、それからそっと、口に含んだ。
佐江の口から、こらえようのない息があふれる。
それを男の手で受け止めて、清春は丹念に佐江を愛撫した。吐息も甘い泣き声も、すべてが清春の大きな手の中でせき止められてゆく。
清春がささやく。
「声を漏らすな。どんな声ひとつだって、おれのものだ」
清春の手はためらいもなく佐江のドレスの裾を持ち上げて、シルクストッキングを這いのぼりガーターベルトにたどりついた。
そのまま、下着の中に長い指を入れ込む。
佐江がびくっと飛び跳ねた。
指が柔らかく動いて、男の耳がききたいと思っているかすかな音を引き出す。
「きよ、さん」
清春はすっと身体をまっすぐにして、フェイクパールが揺れる佐江の耳たぶを噛んだ。笑ったような声が佐江に聞こえる。
「佐江……ぬれてる」
低い声でそう言われて、佐江は泣いたような目で清春を見た。
「あいかわらず、感じやすいんだな」
『あなただけ。他の人には、ふれられていないから』
佐江がそう言おうとしたとき、清春はそっと愛撫をはじめた。
清春の黒いジャケットの上に爪を立てようとするが、するりするりと力が抜けていく。そのうちに清春が笑い始めた。
「くすぐったいよ、佐江」
「だって、手が…指が引っ掛からない」
佐江が半泣きでそういうと、清春は手を止めて佐江の指先を自分の前に持ってきた。それから笑いだした。
「指が引っかかるわけがない。こんなやわらかい革のロンググローブをはめているんだからな」
清春は柔らかい革に包まれた女の指先をかじった。
「……白のキッド革の手袋をした女なんて、日本で見たことがない」
佐江は、何も言わずにただじっと清春を見ている。清春は笑ったままキスをした。
「佐江。このまま、いかせてやる」
佐江は何も言わずに清春の肩の上で、キッド革のロンググローブに包まれた指をぐいっと食い込ませた。
「……キヨさんも、一緒でなくちゃだめ」
佐江がささやくと、清春は一瞬身体をとめた。
それから佐江のはだかの肩に額をのせて、大きく息を吐いた。
「『一緒じゃなくちゃ、だめ』……か。
おぼえているか、佐江? おまえ、6年前もそう言ったんだ……」
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