8人が本棚に入れています
本棚に追加
/340ページ
通りを闊歩する身なりの整った人々。
彼らは、口を開けば生活が苦しいと文句を垂れる。
しかし、食事をすることができ、着る物もある。
屋根のある場所で生活をし、洗濯された着物を着て、風呂に入ることもできる。
病になれば薬を求め、たまの贅沢と言って酒を飲むことだってあるだろう。
そんな人間には、本当の貧しさなどわからない。
誰もかれもが判を押したように人間として生きている。
まだ幼い少年は、濁った眼で通りを歩く人間を、まるで別の生き物のように見ていた。
衰弱してろくに呼吸もできなくなった弟を抱きしめながら、ただ、少年はその別の生き物を見続けていた。
最初のコメントを投稿しよう!