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独りぼっち
◆
それから更に数ヶ月が過ぎ、候補生達が実習にも慣れてきた頃。
教会本堂に集合した少女達は、早朝から黙々と掃除に勤しんでいた。
というのも、今日は彼女達の言葉で言う一大行事が予定されているので有る。
騎兵団と共に遠出し、実際に汚染区域で修道術を使うという、少々危険な実習内容となっていた。
水の豊かなこの地方一帯に広がった紺碧死黴と呼ばれる有害魔胞子の一角は、水の中で真綿のように膨張し、深刻な水質汚染を引き起こす。
煮沸しても胞子は消えず、一口飲んだだけで生物の体内で爆発的にカビが繁殖。
遂には全身をカビに侵され、人間は堕天者と呼ばれる化け物へと変貌してしまう。
今回の実習は、その汚染を払って欲しいという切実な願いが込められたワイス政府からの依頼でもあるのだ。
本来は緊張感を持って対応するべき案件なのだが、久しぶりの騎兵団との交流を前に浮き足立つ候補生が続出した。
普段は付けない髪飾りを纏ったり、若干唇に朱を差したり。
仕草や言葉遣いに気を配っていたり。
兎に角、行事を意識している事は確かだった。
そんな時。
「ノルンさん? ノルンさんはいますか?」
本堂の修道術師から、呼び出しが掛かった。
他の候補生達に一言断ってから、ノルンは中年の修道術師の元へと向かう。
ノルンが駆け付けた時、丁度一羽の青い鳥が天高く飛翔したのが見えた。
今のは、手紙を専門に運ぶ伝令鳥である。
大体の検討が付いたノルンへと、修道術師が小さな筒を手渡した。
「ノルンさんに、クラスト政府より手紙が届きました。自室で開けると良いでしょう」
「クラスト政府から……私にですか?」
胸騒ぎを感じながらも、ノルンは一礼をし、早足で先ず他の候補生達の所へと戻って事情を話した。
快諾してくれた彼女達にお礼を言って、ノルンは一人、寮へと戻る。
そして木製のテーブルの上で慎重に筒を開き、中身を取り出した。
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