独りぼっち

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 小さな手紙の内容に何度か目を通したノルンだったが、その表情には僅かな曇りも無く。  長く細い溜め息を吐き出すだけに留めた。 ─私達は、世界に『さよなら』を言い続けて生きている─  そんな言葉が、脳裏に甦った。  手紙を片手で握り潰し、一瞥した後。  ノルンは手紙を屑籠へと棄てた。 「こんなの、今更だよ……」  誰に向けたワケでも無い言葉が霧散する。  ノルンは何事も無かったかのように、実習訓練へと挑んだ。  ◆ 「ここが、今回依頼のあったレイル大湿原です」  あれから二日程掛け、ノルン達は騎兵団の護衛の元、実習の現場となる危険区域へと到着していた。 「うわぁ……」  候補生達から感嘆の声が上がる。  目の前には、空を映した大小様々な形の水溜まりと、それに浸かった緑色の草原が広がっていた。  湿原に流れ込む細い小川は何本か目の前を横切り、せせらぎと共に花形の水草を穏やかに運んでいる。  更に湿原の奥には、湖を連想させる巨大な水溜まりが幾つか視認でき、地平線で陽射しと交わって眩しく水面を輝かせた。 「足元に注意して進みましょう。この周辺はまだ汚染は少ないですが、安易に深い水場には近寄らないように」  修道術師(シスター)と数人の騎兵団の男性を先頭に、一行は進行を開始した。  基本的には湿った草むらの上を、時には濡れた泥の上を。  もしくは、小川の中を。  ひたすらに歩き、背の高い草むらを踏み倒す様に湿原の奥へと歩を進める。  湿原の中は動植物の宝庫となっていた。  ノルンは時折、視線を巡らせてみる。  疎らに群生する木々では水鳥の群れが羽を休める姿が見え、背の高い薬草花や水面に浮かぶ無数の丸い水草といった珍しい品種にも出会える。  また、蛙や虫の鳴き声は絶えず聞こえており、一定の生態系が完成しているようであった。  それから暫く歩いて、一行は湿原の西側へと辿り着く。  既に陽は暮れていた。  丁度広い森に入る事が出来た為、騎兵団と協力して野宿の準備をする事となる。
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