道標

4/6
前へ
/135ページ
次へ
しかし、吊り橋に足を踏み入れた瞬間。  足場はギシミシと音を上げ、吊り橋全体が上下した。  嫌な汗がノルンの頬を伝わる。 「うう……!」  横を通るロープを掴み、涙を堪えながら前進するノルン。  と、ロープを握った事で気が付いてしまう。  この両側を通るロープが、自分の腰ぐらいの高さしか無い事に。  つまりは手摺のような存在ではなく、あくまで吊り橋を成立させる為に必要なロープなのだ。  横を見ると、折り重なった枝葉が遥か下で揺れ動いている。  今まで散々体験してきたが、転落は即座に死に繋がるだろう。 (ノルン、ほら。落ち着いて。アタシがついてるから) 「う、うん……」 (それにしても、ロウのヤツ。白状ね) 「そ、そんな事無いよミア。此所まで沢山助けて貰ったし。色々と教えてくれたよ。今だけは、私の力で頑張──」  言い掛けた時。  片側のロープに両手で掴まった際、足が縺れて。  背負っていたリュックが、ロープの外側へと出てしまった。 「あ……」  そのリュックの重さに引かれて足を滑らせ、ノルンの身体は吊り橋から、投げ出された。  反転してゆっくりになった視界は遠ざかる夕刻の空を残酷に写し、浮遊感が襲う。
/135ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加