素敵な気持ち

4/4
前へ
/135ページ
次へ
 女性はノルンに座る様に促し、隣に腰掛けた。  小川の囁きを背景に女性は続ける。 「植物薬学、歩法能力、そして魔法細菌(フローラ)の知識。全ての能力を高い水準で習得し、修道術師(シスター)として最高峰の実力を持つ。それが、教会聖堂から杖を授かる為の最低条件です。──少なくとも私には、無理でしたがね」  ノルンの肌が粟立った。 「最低条件が、最高峰の実力……ですか……!?」 「教会聖堂に認められる、というのは大変厳しい道のりですから。授かる杖に使用される材料が、世界霊樹(ユグドラシル)の枝だと言えばその希少さが分かりますか?」 「え……!?」  思わず言葉を失う。  世界霊樹(ユグドラシル)は、樹齢97000年と言われている世界最古の植物であり、この地上に一株しか存在していない希少種だ。  現在は教会聖堂によって厳重に保護されており、老若男女、誰しもが知っているであろう教会の象徴的存在である。  その枝を使用するとなれば、確かに条件は厳しくもなるだろう。 「貴女を救ったという修道術師(シスター)は、相応の実力を持つ方でしょう。……その人との思い出、どうぞ大切になさって下さい。もう行って大丈夫ですよ?」 「は、はい!」  ノルンは頭を深々と下げ、興奮冷めぬままに『講堂』から走って出て行った。 (凄い……!)  本堂の有る教会方面へと林の中を走りながら、ノルンは満面の笑みを浮かべ、目を輝かせる。  叫び出しそうな気分だった。 (凄い凄い凄い! あの人、そんなに凄い存在だったんだ!)  自分の憧れの存在が、自分が目指す道の頂にいる。  それは初めて修道術を目の当たりにした『あの日』以来の、素敵な気持ちであった。  ◆  
/135ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加