何も知らない

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 父親の采配一つで、配属先と座る椅子の位が決まる。  実際ロウは優秀なのだろうが、周りの人間からすれば妬みの対象でしかないだろう。 「生まれた時から、僕の人生は全て設計されていた。日常生活、交友関係、役職。そして婚約者。全て父が決めて、父が僕に与えた事だ」 「……悪かったわ。嫌な事、聞いちゃったわね」  流石のミアも、口調を和らげて丁寧に謝った。  すると、ロウが短く笑った。 「いいや。君達には、何処かで話しておこうと思っていたんだ。何だか、騙しているみたいだからな」 「ロウ……」 「──落胆させてすまない。でも実際の僕は、こんなに空っぽなんだ。全部与えられたモノで造られた、空っぽの器なんだよ」 「そんな事有りませんっ!!」  いつの間にか入れ替わって。  ノルンが纏わり付く暗闇を切り裂いて叫んだ。  これには、ロウも目を丸くして驚く。 「全部なんかじゃ有りませんっ! 空っぽなんかじゃ有りませんっ! 私の手を引いてくれた事も、素晴らしい景色を見せてくれた事も、この森を教えてくれた事も、全部みんな、与えられたっていうんですか!? そうしろって、言われたんですか!?」 「……っ」 「ロウさんは、ちゃんと『自分』を持っているんです! だから、だから……空っぽなんかじゃ有りません!」
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