旧湖畔街道

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それは滝の上から眺めた時から、ずっと気になっていたのだが。  こうして下から見てみるとその全貌がよく分かる。  階段は滝の方向へ何段か上がった所で崩れ落ちてはいるが、平らになっている通路部分は損失も少なく、森の中へと伸びている。  どうやら木の根の上を通してあるらしく、あの高さならば水を含んだ砂地や岩、小川に触れる事無く歩けそうだ。  余計な回り道や段差が無い分、最短距離で楽に進めそうな道である。 「あの人の手で造られた通路を見て、君はどう思う?」 「……え? 便利そう、ですけど。──あ、でも何というか……少し怖いですね」 「だろ。神歴樹の森を通って来たのなら、アレの……旧湖畔街道の持つ違和感に直ぐに気付く」 「どういう事ですか……?」  ノルンはロウの近くにしゃがみ込んで日光浴をした。  今日は特に天気が良く、陽射しもたっぷりと地上に届いている。 「例えば、ノルン君。テーブルを一つ作る時でさえ、教会が定めた森林法に乗っ取って木を切り倒すだろう? 木を切る、という事は自然という巨大な群れの中から完全にソレを『隔離』させる事だからだ。そして、人が一度切り離したモノは、二度と元に戻る事は無い」  丁度、森から吹き上げられた風が当たり、壊れた階段がギシミシと軋んだ。  還る場所を失い、ただ朽ちて行くだけの。  悲鳴にも似た鈍い音だった。
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