21人が本棚に入れています
本棚に追加
私だけ
◆
修道術の講義を受けた後、直ぐに森へと出発。
何時間かを費やして森を歩き回り、そこで植物を観察して採取。
各班に分かれ野営を行う。
そして翌朝には本堂へと戻り、数日間座学を行った後、再び森へと入る。
そんな日々が、数ヶ月もの間繰り返されるようになった。
それに伴い、本堂にいる時間よりも森に入っている時間の方が長くなっていく。
自然の中に身を置く事で感覚として身に付く能力は多く、候補生にとって最も長く割り当てられる鍛練であるからだ。
悪路を歩く過酷さと、慣れない環境下。
心身を磨り減らすのに十分な材料であり、久しぶりに本堂へと帰って来た時には、少女達は皆疲れ果てていた。
「はぁ~。川とか湖も良いけど、やっぱり此処の温泉だよ……」
只一人、ほんわりと顔を綻ばせて湯に浸かるノルンを除いて。
彼女達は久しぶりに、教会本堂が解放している洞窟温泉に来ていた。
地下の源泉から洞窟内に温泉が染み出しており、入って直ぐに浅瀬にブツかり、足首を湯に浸からせながら中を暫く進んで行くと、開けた場所に出る。
そこは、自然が長い年月を掛けて造り出した天然の浴槽の様になっていて、肩まで浸かる事が出来た。
洞窟の天井は少し歪に丸く空いており、夜には星空と月明かりが飛び込んで来る。
天井から湯に滴り落ちる水滴の音色と立ち上る湯気が、より幻想的に空間を彩った。
「でも森林実習も、楽しかったなぁ……」
湯煙が夜空へと吸い込まれて行く様子を見上げながら、ノルンは一言呟く。
その緊張感の無い言葉とは裏腹に、周りの候補生達は軽く引いていた。
「はい、実習の話禁止」
「もっと別の事話そうよ~」
等と、年頃の少女らしく候補生達がお喋りで盛り上がる中、ノルンは只一人、星空を仰いで思いを巡らせる。
最初のコメントを投稿しよう!