私だけ

1/2
前へ
/135ページ
次へ

私だけ

 ◆  修道術の講義を受けた後、直ぐに森へと出発。  何時間かを費やして森を歩き回り、そこで植物を観察して採取。  各班に分かれ野営を行う。  そして翌朝には本堂へと戻り、数日間座学を行った後、再び森へと入る。  そんな日々が、数ヶ月もの間繰り返されるようになった。  それに伴い、本堂にいる時間よりも森に入っている時間の方が長くなっていく。  自然の中に身を置く事で感覚として身に付く能力は多く、候補生にとって最も長く割り当てられる鍛練であるからだ。  悪路を歩く過酷さと、慣れない環境下。  心身を磨り減らすのに十分な材料であり、久しぶりに本堂へと帰って来た時には、少女達は皆疲れ果てていた。 「はぁ~。川とか湖も良いけど、やっぱり此処の温泉だよ……」  只一人、ほんわりと顔を綻ばせて湯に浸かるノルンを除いて。  彼女達は久しぶりに、教会本堂が解放している洞窟温泉に来ていた。  地下の源泉から洞窟内に温泉が染み出しており、入って直ぐに浅瀬にブツかり、足首を湯に浸からせながら中を暫く進んで行くと、開けた場所に出る。  そこは、自然が長い年月を掛けて造り出した天然の浴槽の様になっていて、肩まで浸かる事が出来た。  洞窟の天井は少し歪に丸く空いており、夜には星空と月明かりが飛び込んで来る。  天井から湯に滴り落ちる水滴の音色と立ち上る湯気が、より幻想的に空間を彩った。 「でも森林実習も、楽しかったなぁ……」  湯煙が夜空へと吸い込まれて行く様子を見上げながら、ノルンは一言呟く。  その緊張感の無い言葉とは裏腹に、周りの候補生達は軽く引いていた。 「はい、実習の話禁止」 「もっと別の事話そうよ~」  等と、年頃の少女らしく候補生達がお喋りで盛り上がる中、ノルンは只一人、星空を仰いで思いを巡らせる。
/135ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加