22人が本棚に入れています
本棚に追加
「本来は其処も通って湖を進むつもりだったんだがな。まあ、このまま森を抜ければ、どのみち湖の真ん中には降りられるさ。あとは、汚染の範囲だが──」
「ああ! ロウさん見て下さいっ!」
突然隣で大声を上げたノルン。
余りの勢いに、ロウは思わず腰の剣を掴んでしまった。
「どうした!?」
「アレ! 見て下さい」
ノルンが見上げて指差す先。
生い茂る枝葉の表面に、不自然に日差しに輝く結晶が幾つも見える。
重さで枝が少し垂れ下がってもいるし、寄生型の植物というよりは、鉱物に近い印象だ。
「え? ああ……何だ……ノルン君」
ロウは深く息を吐いて剣から手を離した。
持て余した左手で、自らの頭の後ろを盛大に掻く。
「アレは、湖に含まれている結晶成分だ。構造上は塩に近いらしい。この辺りの樹は湖の水を根から吸い上げているからな。葉の表面上でこうやって結晶化するんだ」
「へぇ……」
ノルンは目を輝かせて頭上の枝葉を観察した。
この辺りの葉っぱはどれも結晶の花を咲かせており、この人工道を彩っている。
「この景色は、きっと。この街道が造られなかったら、見られなかったと思います」
ゆらゆらと不規則に揺れる葉と結晶花が、ノルンとロウに複雑な影を落とす。
「──便利な事が全部、駄目なワケじゃない。だけど人は、近道をしたがるからな」
足元の隙間から下を眺めて、ロウは言う。
最初のコメントを投稿しよう!