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湖畔水道
◆
「また来るぞ、ノルン君!」
水に浸かった森の中にロウの声が轟く。
折り重なるようにして行く手を阻む大小の木の根と、泥濘んだ足元。
焦る気持ちを押さえて、ノルンは泥に足を取られないよう、ひたすらに前進を続ける。
しかし。
この浅瀬の中を、魚の様に身体をくねらせて追跡して来る大きな影が多数。
あっという間にノルンに追い付き、回り込み、水中から飛び出してきたのは。
全身を蒼白いカビに覆われた、人型の生物。
紺碧死黴と呼ばれる有害魔胞子の一種に支配された人間の成れの果て。
堕天者である。
より遠くへ、より広く。
活動範囲を拡大させる為に人を殺害し、その肉を苗床にして増殖するのだ。
「……っ!」
人の肉とカビが織り混ざったおぞましい姿を目の当たりにし、恐怖で身体が強ばるノルン。
掴み掛かってきた両腕はしかし。
真上から降った白銀の一撃によって容易く切断される。
道を切り開く為に、少し先で戦闘を行っていたロウであった。
周囲の幹や根を蹴り付け、舞うようにノルンの元へと駆け付けたのである。
盛大に水飛沫を巻き上げながら着地を決めるも、その鋭い眼光は既に相手の姿を捉えており。
舞い上がった飛沫が水面へと落下するより、速く。
左右より繰り出された双剣は、堕天者の上半身を粉々に破壊した。
間髪入れずノルンの背後へと投剣し、水中から姿を見せた一体の頭部へと命中させた。
空いた手でノルンを背後へと庇い、前進を促してから近くの幹を蹴って宙へと身体を躍らせる。
そして、空中で身体を高速旋回。
飛び出してきたもう一体の頭部へと遠心力を乗せた強打を見舞い、果物を破裂させるように粉砕した。
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