私だけ

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 もっともっと、色んな世界を見てみたい。  色んな経験を重ねて、修道術を研きたい。  あの人に追い付く為にも。  夜空に浮かぶ星の様に遠く、目指す場所を示してくれる憧れの存在。  挫けそうな時、思い出の中で何度も勇気をくれた。  自分もいつか、誰かの為に輝く事が出来たのなら。  それこそが、あの修道術士(シスター)への最高の恩返しになる筈だ。  と、ノルンが洞窟温泉の如く熱い思いを滾らせていると。 「で、ノルンはどうなの?」  急に話を振られ、しかも全員の視線が集中している。 「あ、ゴメン。聞いてなかった」 「もぉ。最近、どうなのって事」 「どうって?」 「気になってる人とか、いないの? ほら、前に騎兵団の人来てたじゃない? 何人か、格好良い人いたでしょ!?」  騎兵団は、修道術士(シスター)の旅に同行する護衛兵を排出している組織である。  護衛兵は独り立ちした修道術士(シスター)に付く事が原則で、危険な旅の道中の盾であり、矛でもある。  普段異性に出会う機会の少ない彼女達にとって、騎兵団の教会訪問は一大行事なのだ。 「あ、う~ん。まぁ……」  特に意識してなかった事だけに、非常に答え難い質問であった。  他の候補生達は、誰が良いとか好きだとか、講義以上に積極的に意見を交わしている。 (気になる人、か……)  そんな事、考えもしなかった。  一向に話題に入れないノルンは、顔半分まで湯に浸かり、ブクブクと息を吐き出して半眼となる。 (もしかして、いないのって……私だけだったりして?)  謎の危機感を抱きつつも、ノルンは一向に発言出来なかった。  ◆
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