【真鍮とアイオライト】9th 真鍮とアイオライト

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 北島鈴。  多分、接写の小さな鈴と思われるアイコンが表示されていた。わざとなのかもしれないけれど、画像は少しピンボケしていて鈴だと認識できるのは、多分、鈴のアイコンだと分かっているからだ。  と、まあ、そんなことはどうでもいい。  鈴からのLINEだ。  あの月が綺麗だった日の翌日。バイクで図書館まで送り届けてもらって以来、鈴とは会っていない。  年末で仕事も忙しかったし、鈴の方は父親の実家の方に里帰りするという話だった。と、言う話も、お礼に飯を奢るなんて言ってしまって、テンパった俺が、この年末の忙しいときにいつがいいかなんてLINEを送ってしまったから、鈴がそれに答えて教えてくれたんだ。  社交辞令。と、言う言葉に思い至らないあたり、本気でテンパっていたと思う。  けれど、何度もいけなくて残念だとか、済まないとか、また誘ってほしいとか送ってくれるから、少なくとも迷惑ではないのだと思うことにした。  スマホの画面をタップする。少し、手が震えた。  帰ってきました。  会えなかったけれど、鈴は何度かメッセージをくれた。あの夜の月のことと同じように、他愛もないことだったけれど、嬉しかった。画面に鈴の名前を見つけるとそれだけで、心が跳ねた。  最初は、会えなければ、この気持ちはすぐに萎んでしまうと思っていた。鈴はちょっとその辺にいるようなただのイケメンじゃなくて、多分人類の98%くらいが認めるくらいの完成度だから、優しくされて舞い上がってしまっているんだと思っていた。本当に綺麗なものには男女とかそう言うの関係ないんだと、思い知らされた。  けど、結局俺は男だし、優しくしてくれるって言っても、それは、友人としてだってことは、ちゃんと理解している。だから、冷静になって考えれば、友達として楽しく付き合っていければそれが一番いいって、結論には達した。  しゅぽん。  手の中のスマホがまた、違う鳴き声で着信を知らせる。  目を落として、俺はため息をついた。結論は出たはずなのに。  お土産あります。  会えないですか?  冷静になんてなれるわけない。  たった、16文字だ。いや、最初のも合わせたら、24文字。  たったそれだけで、もう、鈴のことばかり考えてる。  笑ってる顔が見たいとか、名前を呼んでほしいとか、あの低い声が聞きたいとか。  もう、なんというか、昭和の少女漫画みたいなことを考えている自分がいて、気持ち悪っ。と、思うし、異常だと頭では理解しているけれど、止まらない。正直どうしてここまで自分が鈴に執着しているのかわからない。わからないけれど、多分それが…。  そこまで考えて、俺ははっとした。兄ちゃんとばあちゃんがじぃっ。と、俺の顔を見つめている。ばあちゃんは、にこにこ笑いながら。兄ちゃんは、眉間に皺を寄せている。  ガン見。という言葉がまさにぴったりくるような凝視だ。 『…お前』  兄ちゃんが、口を開く。 『あー。や。うん。ちょっと、散歩してくる』  兄ちゃんが続きを話す前に、俺は炬燵から出た。一瞬、外で強い風が吹いたのかガタガタと雨戸がなる。出ていくのを止められているような気がしたけれど、ここにいるのは気まずすぎて、俺は逃げるようにふすまを開けて廊下に出た。 『菫』  後ろで兄ちゃんの声がしたけれど、聞こえないふりをする。今は追及されたら隠し通せない気がするから、俺は、ごめん。と、兄ちゃんに心の中で手を合わせながら、自室に向かった。  もちろん、その途中で、大丈夫。会えるよ。と、鈴に返事をする。  いつもより、足が軽く動かせるような気がする。  寝正月で立ち仕事の疲れも癒えたかな?  なんて、口には出さずに呟くけれど、本当は軽いのは気持ちの方だと分かっている。  鈴に会える。偶然じゃなくて、会いたいと思って会いに来てくれる。その目的が何であっても、それだけで舞い上がってしまう単純な俺であった。
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