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MISSION②〜決めごと〜
翌朝起きてきた真那はソファからはみ出した脚を見て、口から出そうだった悲鳴を慌てて飲み込んだ。
そうだった、昨夜泊めたんだった。
お気に入りの毛布を鼻まで上げて寝ていた甘えん坊の弟のような男の子は、寝方まですっかり大人の男の人になっていた。
腕を頭の下に敷くように眠る風我。
寝顔は変わらないのに、月日というものは過ぎてしまえば一瞬だ。
風我は母一人子一人祖母一人。
昼間と夜の仕事を掛け持ちしていた母親はあまり帰って来ず、風我の世話を甲斐甲斐しくやっていたのは祖母だった。
家が近くでよく見かけ、見るたびに泣いている風我を見るに見かねて声をかけてみると懐っこく可愛い風我の世話を真那も見るようになった。
穏やかで優しい祖母は真那にも孫のように優しく、時に厳しく接してくれた。
「千恵ばあちゃん元気かな……」
「まあまあだよ」
独り言のように呟いた小さな声に、寝起きの低い声がこたえる。
「起きてたの」
「今起きた。身体いてぇ…」
呻くように吐き出す風我に苦笑いを返してから真那はキッチンに向かった。
電気ポットに水を入れてセットし、冷蔵庫から卵とウインナー、レタスを取り出す。
「風我、ご飯食べる?」
「ん」
一旦洗面所に消えた風我は顔を洗ってすっきりした表情で戻ってくる。
真那の隣に並んで立ち、真那を見ている。
「スープ?コーヒー?ミルク?」
「んー」
「スープはコンソメとポタージュあるよ」
「ポタージュ」
「コーヒーはいらない?」
「欲しい」
「ん。卵は?目玉焼き?スクランブルエッグ?」
「真那ちゃんは?」
「今日は……スクランブルエッグかな」
「じゃあ俺もそれ」
小さいボウルに卵を割ろうとしたら横から風我の手が出てきてそれらを取り上げる。
「俺やる」
「できるの?」
「自炊してたから」
「へぇ、偉いじゃない」
「将来のためにもね」
「将来?」
「ばあちゃんからも教えられてたしぃ」
「あ、そっか」
「真那ちゃんもばあちゃんから習ってたよねぇ」
「うん、千恵ばあちゃんのご飯何もかも美味しかったから」
「激しく同意ぃ」
二人同じことを思い出し、顔を見合わせてふふっと笑い合う。
「千恵ばあちゃん元気だって?」
「んー、まぁ、もう歳が歳だから膝が痛い腰が痛いって言ってるし、こんぶとの散歩も毎日は出来てねーけど」
「こんぶ?さざえじゃなかった?」
「真那ちゃん、何年前の話してんの。さざえはとっくに天国行ったよ」
「え、そうなの?」
「そだよー。さざえの後にあわびきて、それからもずくきて、今のこんぶ」
「ふふっ。海しばりの猫の名前は変わらないんだね」
「ねー謎だよね、ばあちゃんのこだわり」
熱したフライパンにバターを入れると途端にいい香りが部屋中に広がっていく。
トースターに入れた食パンの焼ける香ばしい匂い。
スクランブルエッグの甘い匂い。
ポタージュとコーヒーも入った。
一人じゃない朝食はいつぶりだろう。
快晴ですと爽やかに告げるニュースを見ながら風我と二人いただきますと手を合わせた。
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