MISSION⑧〜待てを躾けて〜

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「ま、待って」 キスされながらどうにか発した真那の頬に唇を移した風我が擦り寄る。 「あのね、私これから出勤だから」 「うん、知ってる」 甘えるように頬に風我の頬がくっつく。 「風我、あの」 「あーずっとこうしてたい…」 甘い声が呟くのにきゅんとしてしまいながら真那は風我の胸に手を置いて距離をとる。 見下ろす頭には倒れた耳が見えそう。 「仕事の前は、あの、大人のキスはちょっと…」 「なんで?」 「なんで、って、あの」 「真那ちゃんしたくない?」 悲しそうに下がった眉をよしよしと撫でてから真那は風我の首に腕を回し抱き寄せた。 「仕事中に思い出したら………仕事にならないから困るの」 「え」 「風我のキス、ずっと残る、から」 真那の肩口で風我がふっと笑いをこぼした。 「うれしい」 「私は、ちょっと困るんだけど……昨日からずっと、えっと」 「ずっと、なに?」 「………からかってるでしょ」 「聞きたいの」 「ずっと……ずっと繰り返し思い出してる…」 「うん、俺も」 風我の腕が真那の臀部に回り、シューズボックスの上に座らされた。 ほぼ同じ高さになった視線が絡む。 「もう慣れた?」 「え?」 「大人キス。てゆうか、俺のキス」 「………そんなすぐ慣れないよ」 「慣れるまでたくさんしよーね」 「……慣れたくない」 「え!?」 あたふたする風我の頭を胸に抱いてやってから真那は笑子のLineを思い出す。 「ずっと、ときめいていたいから慣れたくないの!」 「真那ちゃん大好き!!」 「待て!だからね!」 一人でシューズボックスから下りた真那はいそいそと自分の部屋に戻り、いつの間にか随分進んでいた時計を見て慌てて部屋着を脱ぎ捨てた。 部屋の外で風我が切なそうな声で名を呼んでいる。 後ろ髪を引かれる思いで着替えドアを開けると、風我が飛びつくようにくっついてきた。 「だから待て、だよ!」 「真那ちゃん……」 「………帰ってきたら、また、あの」 健気に待つ愛しい人。 私だって『望まぬ待て』をしてるんだよ… 自分とは違う固い胸に擦り寄ってから告げた。 「また………してね、大人キス」
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