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彼と別れたことはあっという間に広がったようだ。
彼が新しい彼女との行動を隠さなくなったことや、彼女が自ら公にしていることも要因だった。
部署が違うことが救いだった。
彼の方はわからないが、真那にしてみれば嫌いになって別れたわけではない。
この先も続く付き合いだと思っていたところに、突然別れを告げられたのだからまだ心の整理はつけられていない。
早く週末が来ればいい。
それだけを思い、仕事に向い合った。
「布施」
「風見さん」
「今日飲み行かない?ご飯だけでもいいけど」
一年先輩の風見が昼休みになると同時に真那の席までやってきた。
恐らく彼の噂でも耳にしてようすを見に来てくれたのだろう。
「ごめんなさい、昨日から幼なじみが同居することになって」
「幼なじみ?」
「次住む部屋が決まるまでの間なので、そう長くはないと思うんですけど、夕飯を一緒にとるって」
「そうなの?」
風見と二人社食に向かいながら話をしていると、お弁当を持った彼と新しい彼女が中庭に向かうところに出くわした。
横目でちらっと真那を確認した彼は何も言わず、彼女の背中を押し中庭へと入って行った。
「二股?」
「………何も聞いてないです」
「エリート部署の男、根こそぎモーションかけてるって有名だけどそれでもいいって?」
「さあ………甘えられるのが嬉しいみたいです」
「誰にでも甘えてるってわかんないもんかね?」
「風見さん」
「ごめん、言い過ぎた」
サバサバした性格の風見、初めこそ近寄りがたがったが、一生懸命覚える姿勢の真那を一人前になるまで根気強く厳しく指導してくれた。
人付き合いの苦手な二人は意外と気が合い、部署が変わった今でも給料日後や月に二回ほど食事や飲みに行く関係が続いている。
「布施は甘えなかったの?」
今日のランチAのヒレカツ定食のヒレにがぶりと噛み付いてもしゃもしゃと咀嚼してから風見が聞く。
ランチBの野菜カレーの素揚げされたオクラを風見の皿に移しながら真那は首を振った。
「甘えるとか、わからないです。甘えてなかったとも思いませんし」
「まあ…甘えないと関係が成り立たないわけでもないしねぇ」
「風見さんと津川さんはどうなんですか?」
「私らは同士って感じだからねぇ、付き合いも長いし。子供がいたらまた違ってたのかもしれないけど」
「お二人の関係、私は凄く好きです」
「あはは、ありがとう」
風見と津川は真那が入社する前からの付き合いで、二人は正に同士のようだ。
親友のようで兄妹のようで、かけがえのない二人に見える。
子宮の病気で子供を望めない風見は結婚という形は取らず、パートナーとして津川と付き合っていると以前話してくれた。
「まだ若い今は考えなくても、欲しくなるかもしれないでしょ、自分の遺伝子を持った子供を。その時結婚してたら解消するのに大変だからいつでも手放せるようにパートナーでいいの」
お互いを尊重し、労り合える二人。
真那の憧れであり尊敬できる二人。
彼とそういう関係になれると思っていた真那の淡い希望はあっけなく泡となって消えた。
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