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『帰り真那ちゃんとこまで行くから一緒に帰ろ』
仕事が終わり、スマホを開くと風我からメッセージがきていた。
市役所の一番近くのコンビニにいると返信し、そこへ向かう。
時間が読めないため入ったコンビニでお菓子を見ながらふと頭に浮かぶ。
昔甘い物が好きだった風我、今もまだ好きなのだろうか。
野菜や肉に魚等食事に関する物には、祖母が厳しく躾ていたため好き嫌いなく育っている気がする。
昨日今日と一緒に食事した時、箸の使い方や食べ方はとても綺麗だった。
男の人らしく大きな口で食べるのも好印象だった。
欠点らしいところといえば、人並外れた(?)寂しがりやなことくらいか。
新商品のお菓子を数点買ってコンビニの外に出ると、ちょうど別れた彼と彼女が寄り添ってコンビニに向かってきていた。
「……お疲れ様です」
業務用の挨拶をし頭を下げる真那。
すると、聞いたことのない冷たい声が降ってきた。
「昼間といい今といい、付け回すのは止めてくれないか。彼女が嫌がっている」
「……は?」
「嫌がらせするタイプには見えなかったが、未練を残すような別れ方をした僕が悪かったよ」
この人は、本当に二年付き合ってきたあの人だろうか。
いつも遠慮がちに優しく触れてきた彼なのだろうか。
気持ちが離れた途端、こんな冷たい言葉しかかけられないなんて。
悔しくて溢れそうになる涙を、唇を噛むことで堪える。
口を開くと泣いてしまいそうで何も言えず立ち竦む真那の肩が後ろから突然抱かれた。
「お待たせ」
聞き覚えのある声を見上げる。
そこには朝まで金色だった髪色を暗い茶に染め、いくつもついていたピアスもなく、ミックスグレーのニットに濃紺のシャツ、黒のスリムなパンツを履いた風我がいた。
「ごめん、結構待った?」
話し方ですら変えた風我は、真那の前に立つ二人に目をやると人懐っこい笑顔を浮かべる。
「こんにちは。あ、もしかして前の彼?」
小さく頷く真那の肩に置いた手をさり気なく腰まで下ろした風我は、さらに真那を引き寄せ髪に顔を埋めるように近づく。
「ずっとアプローチしてて振り向いてくれなかったの、あなたが別れ話切り出してくれたおかげでちょっと前進するかもなんですよ」
「え、はぁ」
「そちらが新しい彼女さん?」
「あ、あぁ…」
「お似合いですね。これでもう彼女にちょっかい出してきたりしないでくださいね。彼女のことは俺が幸せにしますから」
行こうと短く言った風我は、流れるような仕草で真那の手を握り歩き出す。
唖然とする二人を置き去り、かなり離れたところでようやく脚を止めた風我は真那ちゃん!と怒りを含んだ声で名を呼んだ。
「なんなの、あいつ!あんなヤツと付き合ってたの!?」
「………うん」
「褒めて!殴りたいの我慢したんだから、俺!」
「……うん」
我慢していた糸がぷつんと切れる音がした。
ポタポタと地面に落ち、途端に染み込んで消える涙は色んな物を込めていた。
「ごめんなさい……ありがとう、風ちゃん…」
「真那ちゃんが謝ることないじゃん」
「でも……」
「真那ちゃんなら他にいくらでもいい男見つかるから!俺が保証する!真那ちゃんほどいい女なんてそういない!」
「いい、すぎ、」
「じゃない!あんな化粧バチバチの作った顔の女じゃなくて、真那ちゃんはナチュラルメイクで十分綺麗だし!」
「そんな、こと」
「スタイルだって出るとこ出てるし、ウエストと足首だってきゅってなってるし!もっと身体のライン出る服着なよ!」
「ふ、ふうが」
「あ、そうなったら変なヤツが寄ってくるかもな…それはやだな…」
「ふ、風我」
「とにかく!あんなヤツのことなんかさっさと忘れちゃえ!別れて正解!!」
頬を伝う涙はいつしか止まっていて、必死で真那を慰め、代わりに怒ってくれる風我に戸惑いながらも笑みすら浮かんでいた。
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