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その夜以来、お姉ちゃんは拓也さんにべったりになった。
お母さんはマタニティブルーだと信じて疑わない。
あたしは努めて律との話をするようにしている。拓也さんは「素敵な彼氏さんなんですね」「仲がいいんですね」と言ってくれる。
一人で部屋にいると、後悔が襲ってくる。
拓也さんと一線を踏み越える、なんてあたししか考えないと思っていた。
そんなことはない。お姉ちゃんだって人間の、女だ。
「もしかして」と思われた時点で、あたしの手は拓也さんに届かなくなった。永遠に。
あたしが拓也さんと消えたくなったように、お姉ちゃんが内心、あたしに対して人の道を外れるようなことを考えてもおかしくない。
見た目で人の中身はわからないのだから。
お姉ちゃんのお腹はますます大きくなって、最近ではしんどそうだ。
生まれてくる子のことを意識するにつれ、あたしの黒い衝動はしぼんで、でもみっともなく心の底を這いずり回る。
部屋を出れば現実を突きつけられる。生まれてくる子を楽しみに待つ、幸せな夫婦の姿。
見るたびに、お姉ちゃんが正しく、あたしが薄汚れていると思い知らされる。
恋なんてしなきゃよかった。
想いに区切りなんてつけられない。
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