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自分でも何を言おうとしたかわからない。
口を開きかけた時、急に車のライトが目に飛び込んできた。
ぶつかる! と気づいた時には足が動かない。
「危ない!」
拓也さんが走ってきて、あたしを瞬時に抱きしめた。
二人で横の駐車場へ、なだれ込むように避ける。
コートの奥、拓也さんの肉体がそこにあった。
車線を大きくはみ出した車は、何事もなかったかのように車線に戻り、スピードをあげて遠ざかる。
その、テールランプの赤い光を目に受けた一瞬、あたしの中で思いがぐるぐると渦を巻いた。
今過ぎ去ったタクシーでもいい。呼び止めて、あなたと乗ってしまいたい。
このまま家に帰らず、どこか二人で。
それか、もっと手っ取り早く、あなたの腰に手を回してキスしてしまえば。
「愛してる」とささやいてしまえば。
新しい物語が、奇跡のように始まったりしないだろうか。
「大丈夫でしたか?」
拓也さんがあたしから離れて、顔をのぞきこんでくる。
あたしは一歩踏み出し、抱きつこうとした。
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