2話 目的

2/4
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
12時の鐘が学内に響く頃。 ジョージは箒で窓からこっそり抜け出した。3日も行方不明だった影響か、箒の扱いに違和感がある。魔力の入れ方にどうもムラがあった。 とはいえ箒以外の方がかえって危険である。屋根の上までは3階建以上になっており、もし足を踏み外したら……なんてこと、考えたくもなかった。 あくせくしなから向かった約束の場所には、少し眠そうにしながら膝を抱えて待っているリリィがいた。 「何だあれ、果し状かよ」 「……うるさいな、結局来たからいいじゃない」 指摘されたことに対し、不服だと言わんばかりの表情だ。 それを気にせず、ジョージはリリィの隣にドカッと腰を掛ける。  「で、なんかあったのか?」 「ええ。その前にまず確認だけど。――契約のこと、覚えてるわよね」 ジョージは今朝見た夢を思い出した。 不可視の怪物・ディザスタードラゴンと、それを退治する専門家のリリィ達。 ジョージはリリィが持っていた林檎を食べた結果、ディザスタードラゴンに狙われる身となってしまった。 「あー……夢だと思いたかったけど、やっぱそうなんだな」 「随分すんなり信じるのね。詐欺とか引っかかるタイプ?」 「引っ掛からねぇよ!……あ〜、数日行方不明だったらしいし、なんか全身イテェし……ブレスレットは何もわからねぇけど」 左手を上げて、ブレスレットを指差す。 「そのブレスレットは魔力制御装置よ。フロートがつけた」 「これお前らか!全然取れねぇけど……」 「見かけの魔力を誤魔化すものだから、取ったら眼の良い人にはバレる。そもそも自分じゃ取れないけどね。……幸い私達魔法師は魔力補正を目的に貴金属とか宝石をつけるのが一般的だから、魔力制御装置ってバレないとは思うけど。君のピアスもそうでしょ?」  リリィは自身の両耳に人差し指を指してみせる。確かに、ジョージには両耳に複数、黒いピアスがついていた。 「てかそんな重要なこと早く言いに来いよ……」 「ヤバそうだったら邪魔を入れるようにカラスに見張らせてたから大丈夫。それに君は目立つから、話しかけにくい」 「それお前が言う……?」 リリィは少し不思議そうな顔をして首を傾げるも、まぁそれはそれとして、と話を続けた。 「とにかく、誰にもバレないように過ごしてね。この学園は特に優秀な魔法師が多い。誰からバレてもおかしくはないの。それともう一つ、大事な話があるんだけど。君、魔力の属性って何」 「俺?火だな」 「そう。私達は魔法を使うにあたって、それぞれ属性があるよね。 君は火で私は風。というように、火、風、水、土に分かれる。基本的に変わることはないし、その属性が最も使いやすいし、火力も出る」  「そうだけど、何だよ急に。授業か?」 「黙って聞いて。――属性は基本変わらないけど、何事にも例外はあるの。それがあの林檎。あれには魔力増強の他に、魔力属性変異の作用もあるの。つまり、今の君の魔力属性は火ではないわ」 「あ!?」 突然出た新たな情報に、思わず大きな声が出る。 リリィが人差し指を口に当てて静かに!とジェスチャーを送るが、ジョージにとってそれは難しい話だった。 しかし気にせずリリィは続ける。 「でもほかの属性になったわけでもない。どれでもあって、どれでもない。私たちはよく「星」と呼んでいるけどね」 「星……」 ディザスタードラゴンや自分の魔力量が変わったことだけでも手一杯だったのに、属性まで変わってしまった。 ジョージは頭がショートしそうだ。 流石に見かねたのか、リリィは慌てて励ます。 「簡単な魔法を使うだけなら問題ないわ。中等部はまだそこまで複雑な魔法は使わないでしょ」 「あ、あぁ……」 問題ない、と言われても。 まだ若いとはいえ、ジョージは6年以上もこの名門校で魔法の訓練を受けているのだ。ショックは計り知れない。 「話すことはこれくらい。またディザスタードラゴンを退治するときになれば呼ぶわ……といっても、目星はついてるから、準備だけはしておいてね」   「準備?」 「魔法よ!使いこなしといてね」
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!