1話 竜の騎士

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「……。」 味を嚙み締めるかのように、時々頷きながら黙々とビーフシチューを食べるジョージを、友人達は半ば呆れ顔で眺める。 ふと、ハリソンが「そういや」と話を切り出した。 「聞いたか、あの噂」 「噂?」 「迷い森だよ」 「迷い森って学園内にあるあの森?それがどうかしたん?」 ステーキを頬張りながら尋ねるマーカス。ハリソンは周囲を確認しつつ、二人に顔を近づけた。話半分に聞いていたジョージもスプーンを止めて身を寄せる。 「あそこには、人を喰らう魔法生物がいるらしい」 あまりに荒唐無稽な話に、二人は同時に背もたれへ倒れる。 ジョージが再びスプーンを進める傍らで、マーカスはテーブルに肘をつけながら指をさして笑った。 「お前、人を喰らうって!いくら強い魔法生物を飼っているからって、そんなやべーのいるわけないだろ。ここ管理厳重だし。」 その反応が心外だったのか、広げた両手を上下に振りながら声を荒げる。 「いやマジだって!半年前から行方不明が出てるらしいんだよ!」 「学園の?」 「学園のじゃねよ、学外だ。じゃ人が一人減ったって誰も気づかない。」 そうは言っても、と中々信じない友人と食後の紅茶を飲み始めた友人に対し、眉間に皺が寄る。しかし突然、はっとした表情で眼を光らせた。 「……お前ら、そこまで信じねーってんなら、やる事があんだろ」 見え隠れする月に木々が照らされ、森は尚一層不気味な雰囲気を醸し出している。 『フォティア』 各々ランプに火を灯し、一歩ずつ、ゆっくりと進む。 迷い森は普段厳重に管理されており、中等部は授業ですら入ることはない。 「しっかし、運が良かったよな!見張りのゴーレムが居ないなんてさ」 「いいもんか、僕は止めてほしかったよ」 マーカスは両目に涙を浮かべながら周りを見渡していた。 灯りは精々数mまでしか届かない。落ち葉を踏みしめる音に紛れて、姿の見えない精霊の囁き声が至るところから聴こえ始めた。 『誰か来た、誰か来たぞ!』 『ニンゲン!コドモ!オイシソウ!』 『タン、ハラミ、モモ』 『食べるな、マスターに叱られる!おやつがなくなる!』 遂に我慢の限界がきたのか、マーカスはその場にしゃがみ込んだ。 「やっぱ帰ろうよ!!怖いよ、ママーッ!!」 「ッダー!ウルセエ!んなに帰りたけりゃ一人で帰れよ!」 「いやだよ!だってアイツらなんか食べようとしてくるし!アレなんじゃないの例の人食い魔法生物って!?」 「いやあれじゃねぇよ。そもそもあの精霊は人をからかうのが楽しみで、別に食ったりしねぇよ。お前も知ってるだろ」 「そうだけどぉ!!」 森に入って数分で騒ぎ始めた彼らに対し、ジョージは口に手を当てながら考え込んでいた。 「……なあ、やっぱりおかしくねぇか。見張りがいないなんてさ」 「は、考えすぎじゃね?お前も帰りたくなったんか!」 「こんな如何にも怪しい精霊が森にいながら、俺ら中等部が入れる程度の管理ってのがおかしいだろ」 ハリソンは眼を思いきり見開いたかと思えば、眉間に皺をよせ、顔を伏せた。 「……もういい!俺一人で行く!!」 「お、おい!待てって!」 ジョージの言葉も聞かず、どんどん奥に進んでいく。 「ったく……!おいマーカス、とりあえず行くぞ」 勢いよく後ろを振り返る。 木の葉の上に転がるランプは、本来照らすはずのものを照らしていなかった。 「……マーカス?」 前後左右をランプで照らして確認するも、何処にも彼の姿は見当たらない。 「おい、マーカス!!いないのか!!!……ハリソン、マーカスが消えた!!戻ってこい!!」 大声で二人を呼んでも、返ってくる声はない。 それどころか。 。 「っつ……!!」 ジョージはすぐに杖を構えた。嫌な緊張で汗が滲む。両手に持つ物を落とさないよう、力を込める。 耳が痛くなるほどの静寂も束の間、突然轟音が鳴り響き、眼の前に何かが飛んできた。 「うわっ!?」 ランプを向けると、二つに束ねた長い金髪と白いロングコートが照らされる。 は地面に伏したまま、指ひとつも動かない。 「お前、リリィ・スミス……!?」
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