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倒れているリリィに慌てて駆け寄るも、途中で足がもつれて転んでしまう。頼りにしていた灯りが消え、彼女の姿はよく見えなくなってしまった。
それでも四つん這いになり手探りで藻掻くと、彼の指先にコートが当たる。彼女の肩を叩き、呼びかけもしたがそれに応じることはない。
少し眼を揺らした後、緊張で固まった手を必死に動かしながら彼女の腕を肩にかける。
「今医務室に連れて行くからな、しっかりしろよ!!」
自分より少し背の高い彼女を背負って、おぼつかない足で歩く。
すると、微かに耳元で何かを喋っているのが聞こえた。
「……が…る」
「?なんだって?」
「ア、レ……が、くる……」
言葉の意味を理解する前に、背後から再び轟音が鳴り響いた。
振り向くと、木々がつむじ風のようなものに巻き込まれている。
ただ、その様子は自然現象というにはあまりにも不自然であった。右へ、左へ、まるで何かを探すかのようにフラフラと蠢いている。
「こっち!」
あっけにとられていると、いつの間にか降りていた彼女に腕を引っ張られ、木の裏に隠れた。
「おい、何だあれ!つむじ風……!?何があった!!あれが噂の人食い魔法生物なのか!?」
「……この林檎を持って、遠くへ行って」
矢継ぎ早に捲し立てたジョージに一切説明はせず、座り込んだリリィはコートからおもむろにそれを取り出した。
ただ、その見た目は満天の星を閉じ込めたかのような、神秘的なものだった。その衝撃はこの状況下であることをかき消すほどで、彼は思わず目を奪われる。星々の輝きが二人を淡く照らした。
「なんだこれ……林檎?魔力が、なんか……変な感じだ……」
「……あの怪物はこの林檎を狙っているの。だからこれを持って逃げてくれない?」
「あぁ……あ!?」
思わず流されそうになったものの、違和感に気づき、慌てて彼女を見る。
その顔は、普段の無表情とは違う。
目を細めて、緩く口角を上げていた。
「いや、俺が囮ってことか!!」
「ええ、そうよ」
「そうよって……。それ自分で言い出すか、普通……。というか、そうは言ってもお前さっきまでヤバそうだったじゃねぇか!」
「もう大丈夫、一人で歩けるわ。……君が囮になってくれている隙に逃げるから」
それでも、と渋るが、彼女は中々反論を受け入れない。そうこうしているうちに、段々と木々が割れる音が近づいてきた。
ジョージは彼女とつむじ風の怪物を交互に見ながら、歯を嚙み締めて立ち上がる。
「いいか、絶対逃げろよ!……俺のダチもこの辺りにいるはずだ、もし居たら一緒に逃げてくれ」
途端、彼女は眉間に皺をよせながら目を見開く。
しかし、それには触れず小さな声で「わかった」と呟いた。
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