1話 竜の騎士

3/8
前へ
/20ページ
次へ
倒れているリリィに慌てて駆け寄るも、途中で足がもつれて転んでしまう。頼りにしていた灯りが消え、彼女の姿はよく見えなくなってしまった。  それでも四つん這いになり手探りで藻掻くと、彼の指先にコートが当たる。彼女の肩を叩き、呼びかけもしたがそれに応じることはない。  少し眼を揺らした後、緊張で固まった手を必死に動かしながら彼女の腕を肩にかける。 「今医務室に連れて行くからな、しっかりしろよ!!」  自分より少し背の高い彼女を背負って、おぼつかない足で歩く。  すると、微かに耳元で何かを喋っているのが聞こえた。 「……が…る」 「?なんだって?」 「ア、レ……が、くる……」  言葉の意味を理解する前に、背後から再び轟音が鳴り響いた。  振り向くと、木々がつむじ風のようなものに巻き込まれている。  ただ、その様子は自然現象というにはあまりにも不自然であった。右へ、左へ、まるで何かを探すかのようにフラフラと蠢いている。 「こっち!」  あっけにとられていると、いつの間にか降りていた彼女に腕を引っ張られ、木の裏に隠れた。 「おい、何だあれ!つむじ風……!?何があった!!あれが噂の人食い魔法生物なのか!?」 「……この林檎を持って、遠くへ行って」  矢継ぎ早に捲し立てたジョージに一切説明はせず、座り込んだリリィはコートからおもむろにそれを取り出した。  ただ、その見た目は満天の星を閉じ込めたかのような、神秘的なものだった。その衝撃はこの状況下であることをかき消すほどで、彼は思わず目を奪われる。星々の輝きが二人を淡く照らした。 「なんだこれ……林檎?魔力が、なんか……変な感じだ……」 「……あの怪物はこの林檎を狙っているの。だから」 「あぁ……あ!?」  思わず流されそうになったものの、違和感に気づき、慌てて彼女を見る。  その顔は、普段の無表情とは違う。  目を細めて、緩く口角を上げていた。 「いや、俺が囮ってことか!!」 「ええ、そうよ」 「そうよって……。それ自分で言い出すか、普通……。というか、そうは言ってもお前さっきまでヤバそうだったじゃねぇか!」 「もう大丈夫、一人で歩けるわ。……君が囮になってくれている隙に逃げるから」  それでも、と渋るが、彼女は中々反論を受け入れない。そうこうしているうちに、段々と木々が割れる音が近づいてきた。  ジョージは彼女とつむじ風の怪物を交互に見ながら、歯を嚙み締めて立ち上がる。 「いいか、絶対逃げろよ!……俺のダチもこの辺りにいるはずだ、もし居たら一緒に逃げてくれ」  途端、彼女は眉間に皺をよせながら目を見開く。  しかし、それには触れず小さな声で「わかった」と呟いた。  
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加