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袖に染みた血はかなりの量だ。緊張と発汗で気が付かなかったが、繊維を超えて肌にまでべっとりと血がついていた。
『オッ、ニンゲン、トマッテル!』
『どうする?マスターは今日いないみたいだよ』
『決まってる!沢山遊ぶぞ!!』
しばらく心臓の音だけが鼓膜を満たしていたが、聞こえてきた精霊たちの囁きに身の危険を感じ、ハッとした。
とりあえず行こう、と動かした足は一歩で止まる。
(行くってどこに……?)
袖に付着した血を見る限り、彼女に逃げる体力はあると思えない。かといって、助けに戻ってあの不可視の怪物相手に勝算があるわけでもなく。
ジョージが悩んでいることを察した精霊達は、ケタケタと無邪気に笑いながら囲い込む。
『ニンゲン、ナヤンデル!』
『助けを呼びに行った方がいいよ!彼女が危ない!』
『でもあの怪物は強いよ、僕たちでも勝てない』
『先生を呼んだ方がいい!』
『その間にあの子は食べられちゃうかも?』
「うるせぇ黙ってろ!今考えてる!」
ジョージが睨みをきかせながら声を荒げて一喝するも、精霊達はより一層笑うばかりだった。
(クソッ、あんまり悩んでいる時間もねぇ……やっぱり助けを呼ぶ方が確実か)
彼はこの状況下で、助かる可能性が高そうな方に賭けた。この学園の先生は優秀だ。きっと、彼女の怪我すら、何とかしてくれるだろう。自分のような子供に出る幕はない。そう言い聞かせた。
『もう行っちゃうの?』
『ソレデイイノカ?』
『いいんじゃない、助からなくても君のせいではないよ』
『君は悪くないよ』
『いや、悪いよ!だって君のせいで人が死んじゃうかもしれないんだよ』
『もっと考えよう、ずっと、ここで!』
「……チッ!!」
精霊達を振り切って、ジョージは再び走り始めた。
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