1話 竜の騎士

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袖に染みた血はかなりの量だ。緊張と発汗で気が付かなかったが、繊維を超えて肌にまでべっとりと血がついていた。 『オッ、ニンゲン、トマッテル!』 『どうする?マスターは今日いないみたいだよ』 『決まってる!!!』  しばらく心臓の音だけが鼓膜を満たしていたが、聞こえてきた精霊たちの囁きに身の危険を感じ、ハッとした。  とりあえず行こう、と動かした足は一歩で止まる。 (行くってどこに……?)    袖に付着した血を見る限り、彼女に逃げる体力はあると思えない。かといって、助けに戻ってあの不可視の怪物相手に勝算があるわけでもなく。  ジョージが悩んでいることを察した精霊達は、ケタケタと無邪気に笑いながら囲い込む。   『ニンゲン、ナヤンデル!』 『助けを呼びに行った方がいいよ!彼女が危ない!』 『でもあの怪物は強いよ、僕たちでも勝てない』 『先生を呼んだ方がいい!』 『その間にあの子は食べられちゃうかも?』 「うるせぇ黙ってろ!今考えてる!」  ジョージが睨みをきかせながら声を荒げて一喝するも、精霊達はより一層笑うばかりだった。  (クソッ、あんまり悩んでいる時間もねぇ……やっぱり助けを呼ぶ方が確実か)  彼はこの状況下で、助かる可能性が高そうな方に賭けた。この学園の先生は優秀だ。きっと、彼女の怪我すら、何とかしてくれるだろう。自分のような子供に出る幕はない。そう言い聞かせた。  『もう行っちゃうの?』  『ソレデイイノカ?』  『いいんじゃない、君のせいではないよ』  『君は悪くないよ』  『いや、悪いよ!だって君のせいで人が死んじゃうかもしれないんだよ』  『もっと考えよう、ずっと、ここで!』 「……チッ!!」  精霊達を振り切って、ジョージは再び走り始めた。  
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