始まり

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始まり

 その時の珈琲の味を、私は今でも覚えている。 「あのぉ~この書き込みってぇ……やっぱ、センパイのことじゃないですかー?」  対面で首をかしげる後輩女子が指さす小さな画面には、青と黒の簡素な文字列が並ぶ。 「……えっと、どれ?」 「ほらぁーこれですってば。この、隣の家の女が俺のことを狙っているみたいなんだがーってやつ」  どくり、と心臓が波打つ。 「隣の家の女が俺のことを狙っているみたいなんだが、正直俺にはその気はないしどうしようもない。だがこんな機会はそうそうないし、覚書程度に観察してやろうと思う――ね? ほら、センパイですよ~。隣の視線が気になるって言ってたじゃないですかぁ!」  首の後ろから手の甲まで、私の肌をさざ波のように悪寒が走り、後に残った鳥肌が更におぞましく寒気を呼んだ。  ああ、これだ。。  吐き気のような興奮は、私の味覚もすっかり奪ってしまった。その時の泥のような珈琲の味を、私は、今でも、覚えている。
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