【回想①】

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【回想①】

 最初はいつだってみんな優しい。  若く見えるねーとか、面白いねーとか、優しいんだねーとか言ってくれるのに、半年くらい経つと何故か誰もかれもがよそよそしくなる。どうしてだろう、と考えても考えてもよくわからない。  私は誰も嫌っていないのに、なぜか嫌われる。私が悪いのだろうか? 全部、私のせいなのだろうか? こんなに頑張っているのに?  もう疲れた。もうやめたい。全部放り出して、楽になりたい。部屋に引きこもって三日目に、私は溜まったダイレクトメールの中に手作りの広告が紛れていることに気が付いた。  あなたの悩みを打ち明けてみませんか?  そんなありきたりな広告だったけれど、私の目を引いたのはそれが手書きのコピー用紙だったからだ。ちゃんとした広告は怖い、だってきっと悪い業者だもの。でもこのコピー用紙からは、手作りの温かみが感じられる。  私はたくさん悩んだ後、きちんと考えて、相談するのは良い事だからと勇気を振り絞ってほほえみハウスに向かった。  白浜さんはとても優しいおばさんだった。辛かったね、と一緒に泣いてくれた。こんな風に泣いてもらったのは初めてだ。みんな私の話をきくと、あなたが悪いんじゃないの? と責めてくるばかりで、優しくしてくれる人なんかいなかった。  ほほえみハウスで過ごす時間があるから、私は会社にまた通えるようになった。少し怖い先輩も、あからさまに避ける同僚も、くすくす笑う後輩も、『この人たちがおかしい、私は悪くない』と思うことで新しい気持ちで接することができた。  そうだ、私は悪くない。みんながおかしい。白浜さんもそう言ってくれる。明日は白浜さんが『前向きになれるパワーストーン』を持ってきてくれるというので、ほほえみハウスのみんなは楽しみにしている。  でも、実は私は今ちょっと悩んでいることがある。ほほえみハウスの隣の家……そこから、強い視線を感じるのだ。この前二階で窓を開けて掃除をしていた時、隣の家の男の人に見られた気がした。もしかして私はまた、誰かに『加害』されてしまうのだろうか――。
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