運が良い男

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 俺は異界の神様に気に入られてしまった。今後、何が起きても驚かない精神でいかないと疲れてしまう。 「良いよ。ぜんぶ聞けてスッキリしたから」  これは本当。訳が分からないままに強制移住させられたから不満だったのもあるし。誘拐なのがいただけないけど、この男のことは嫌いじゃないからなぁ。好きかと聞かれると、それはこれから考えるって感じだけど。だって、俺はまだ告白されてないし、なんてったって、俺に起きたすべてを今聞いたし。 「とりあえず、その真名ってのを教えてよ。あと、連れてくる前に俺に言わなきゃならないことがあるだろ」  異界に攫う前に告白をしろ。俺は何も聞かないまま二年も悶々と過ごしたんだぞ。酷い話だ。  頭を撫でられ戸惑いの表情を浮かべていた男は、俺の言葉に笑みをこぼす。  花が綻ぶように笑う男が自分の真名を、俺の耳元で囁く。さらりと揺れた髪の間から見えた男の瞳は、空のように青く澄んでいた。
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