運が良い男

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 そんな俺は、神社の稼ぎ時というのは語弊があるが、年始に押し寄せる異形の者たちが引くおみくじを量産中だった。  男が書き上げたおみくじをせっせと折っては、箱に投げ入れていく。その時、ふとおかしなことに気がついた。去年は自分のことに精一杯で、おみくじ制作を手伝わなかったから気づかなかったのか。 「なぁ、これおかしくねぇか? なんで、大吉と大凶しかないんだよ」  良いか、悪いか。あまりにも極端すぎるし、元旦にここまで大量の大凶を入れておく神社ってあるのだろうか。もし俺が大凶引いたら、正月早々運が悪いとショックを受けると思う。俺はわりと打たれ弱い。でも、そんなドン引きしている俺を気にした様子もなく、男は胸を張る。 「それがまったくおかしくはないんですよねぇ。これがうちの神社のおみくじなので」  なぜそこで誇らしげにしてるのか、まったく分からん。 「え、二分の一の確率にかけて、みんなここの神社のおみくじ引くの?」 「そうですよ。うちの神様はきっちりしてますから」  知ってる。きっちり俺のこと連れてきたもんな。神様がなんでそんな事してるのか分からないけど、異界移住強制参加を決めるのってここの神様なんだって。いや、本当になんで俺が選ばれたのかさっぱりだよ。 「あんたも引くの?」 「そりゃあ、引きますよ、と言いたいところですが、もう引かなくてもいいかなと」
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