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1.実家での会話
こたつに入り蜜柑を食べ何でもない時間を過ごす。
「あー、やっぱいいなぁ実家は」
キッチンから顔を覗かせた母が首を傾げる。
「どうしたの? 急にそんなこと言い出して」
「だぁってさぁ、ひとり暮らしだといいろあるじゃん? ああ、明日はゴミの日だから排水口の掃除しとかなきゃとか、今月の電気代やばそうだからちょっと暖房控えようかなぁとかって。そういうのがないって幸せなんだなって最近思うわけよ。食事だって自炊しなきゃとは思うんだけどなかなかねぇ」
あらあら、と母は声を立てて笑う。年末、私は実家に帰りのんびりと過ごしていた。就職しひとり暮らしを始めてから三年。仕事にはずいぶん慣れてきたが家事は相変わらずさっぱりで、ほとんど毎日コンビニ弁当だ。そんな私の日常を知ってか知らずか母は帰省した私に張り切ってご馳走を作ってくれている。
「今日は真奈の好きなものたくさん作るから楽しみにしてて」
そう言ってキッチンに引っ込む母に軽く罪悪感を覚えた。
「母さん、何か手伝おうか?」
こたつの誘惑を振り切り立ち上がる。だがキッチンを覗くと母は笑って首を横に振った。
「いいのよ、実家に帰ってきた時ぐらいゆっくりしてなさい」
「はぁい」
お言葉に甘え再びこたつでゴロゴロすることにした。隣では昼間からお酒を飲んでいた父がすっかり酔っぱらい大きな鼾をかいて寝ている。ふと、本棚に並ぶアルバムが目に入った。取り出してパラパラと捲ってみる。
「うわ、懐かしいなぁ」
ひとりっ子の私は小さい頃からよく写真を撮ってもらっていた。写真を趣味にしている父はデジタルよりも断然アナログがいいんだと写真を撮っては自分で現像までしていた。確かにスマホやデジカメで撮った写真をデータとして見るよりも、こうしてアルバムに貼られ〝真奈、初めての離乳食〟なんて書かれた写真を見る方が感慨深い。
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