1.実家での会話

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 当時の事を思い出しながらゆっくり写真を目で追っていると〝真奈、九歳のお誕生日〟というキャプションの付いた写真が目を引いた。そこには当時流行っていた猫のキャラクターが付いたTシャツを着て満面の笑みを浮かべる自分の姿がある。そうそう、どうしてもこのお洋服が欲しくてずいぶん駄々をこねたっけ。あまりキャラクター物が好きじゃなかった私だがこの服だけは妙に欲しかったのを覚えてる。確かお友達がこれと同じのを着ていて羨ましく思ったんだった。でも誰だろう、そのお友達。同じクラスの理沙ちゃん? 香澄ちゃん? それとも……。 「あ!」  急に大声を出した私に驚き母が居間に顔を出す。 「どうしたの?」 「ねぇ、かなえちゃんって覚えてる?」 「かなえちゃん? 覚えがないわねぇ。小学校の時のお友達?」  ううん、と私は首を横に振る。 「ほら、この家ができる前にほんの少しだけ住んでたアパートあったでしょ? その近くに小林さんって家あったじゃん?」  今住んでいるこの家を建て替える際、一時的にアパートに引っ越した。その時のことだ。 「そんなお家あったかしら? あのアパートに住んでる時はご近所さんともほとんど交流なかったからあまりよく覚えてないのよねぇ」 「確かにね。でもいたのよ、私と同い年の女の子が。やっぱり母さんは知らないかぁ」  話しているうち当時の記憶が徐々に蘇ってくる。かなえちゃんと出会ったのは蝉がわんわんと鳴く夏の暑い日で、真っ青な空に真っ白な入道雲が浮かんでいた。
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