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「こんにちは!」
コツコツと窓を叩き声をかける。窓ガラスにはところどころ泥を拭き取ったような跡が残っていた。
「あなただぁれ?」
女の子は窓を開くことなくガラス越しにそう言って首を傾げている。声は十分聞こえるのだが、すぐに窓を開けてくれるものだと思い込んでいた私は何だか少しがっかりした。それでもせっかく同年代の女の子と話す機会ができたのだからと気を取り直す。窓を開けるとクーラーの冷気が逃げちゃうからだ。うん、きっとそうに違いない。
「私ね、今あのアパート住んでるの。青木真奈、小学三年生」
すると彼女は顔を輝かせた。
「そうなの? 私も三年生。小林かなえ」
同い年だとわかると一気に親しみがわく。かなえちゃんは随分痩せていて顔色が悪かった。ちゃんとご飯食べてるのかな、と心配になる。ふと彼女が着ているTシャツに目がいった。
「あ、その服かわいいね。いいなぁ」
彼女が着ていたのは猫のキャラクターが大きくプリントされたTシャツ。ここ数年子供たちの間で大人気のキャラだ。かくいう私もそのキャラが大好きで、普段はキャラクターの付いた服なんてカッコ悪いと思うのだがこのキャラだけは特別だった。彼女は得意げにふふんと鼻を鳴らす。
「いいでしょ? お誕生日に買ってもらったんだ。九歳になったお祝い。でもね……」
そう言って彼女は悲しげに胸のあたりを指さす。さっきまでは全く気づかなかったがそこにはどす黒い染みのようなものが点々と付いていた。チョコでもついたのだろうか。
「あー、汚れちゃったんだ。でも大丈夫だよ。お洗濯したらきっとキレイになるから」
あまりにも悲しそうだったので元気付けたくてそう言うとかなえちゃんの態度が一変した。
「そんな適当なこと言わないで! 嘘ばっかり!」
顔を真っ赤にし肩を怒らせる彼女はまるで絵本に出てくる赤鬼のようでたいそう恐ろしかった。それでもせっかく同年代の女の子と知り合いになれたのだからと逃げ出したい気持ちを抑え必死にごめんねと謝る。かなえちゃんは納得してくれたみたいで「わかればいいの」と口を歪めた。
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