14人が本棚に入れています
本棚に追加
「あ、そうだ。一緒に縄跳びしない? いいお天気だし」
気分を変えるつもりでそう誘ってみるとかなえちゃんは項垂れ「私、ここを出られないの」と呟く。何か病気でもしているのだろうか。それともお母さんやお父さんが厳しいお家なのだろうか。
「うん、わかった」
彼女のちょっとおかしな様子が怖くなり私は窓ガラスに背を向ける。するとかなえちゃんが大声で「待って!」と叫んだ。くるりと振り向き首を傾げる私に彼女はニタリと嗤う。
「ねぇ真奈ちゃん、ここで一緒に遊ぼ? 私、真奈ちゃんとお友達になりたいな。一緒に遊ぼうよ。ねぇ、ずっと一緒に」
不意に背筋がゾワリとした。真夏だというのに妙に肌寒いのはさっきかいた汗が冷えてしまったからだろうか。
「ごめん、そろそろ帰らないと」
理由はわからないがこれ以上ここにいちゃダメだと思い私はアパートに向かって駆けだした。背後からかなえちゃんの声が追い掛けてきたように思うが何と言っているかまではわからない。階段を一段飛ばしに駆け上り住んでいる部屋のドアを叩いた。
「お母さん、開けて、開けて」
しばらくすると母がエプロンで手を拭きながら「はいはい」とドアを開いてくれた。
「ちょっと真奈、どうしたの?」
私の顔を見て驚いたように母が言う。
「え、何が?」
「顔が真っ青よ? 風邪でも引いたんじゃない?」
母の言葉通りその夜から私は高熱を出ししばらく学校を休んだ。と、同時に自宅の工事も終わりアパートから元いた家に引っ越すことになる。私は寝込んでいる間中考えていたことがあった。あのかなえちゃんって子、ほんとは……。
「幽霊だったりして」
なぜそんなことを考えるようになったのかはわからない。でもどうにも気になってしまい、私は引っ越しの日おそるおそるかなえちゃん家を覗き見た。
「何かご用?」
背後から声をかけられ飛び上がる。振り向くとそこには三十代ぐらいの女性が立っていた。もわんと匂うきつい香水で目がしばしばする。濃い化粧でごまかしているが何となく疲れたような表情は見方によってはまるで老婆のようだ。
「あの、かなえちゃんは……?」
すると女性は眉間に皺を寄せ面倒そうに吐き捨てる。
「かなえ? あなたかなえのお友達? あの娘なら病気で寝てるけど」
それを聞き私は合点した。ああ、やっぱりあの子は病気だったんだ。それで思うように遊ぶこともできずあんな風に苛々してたんだ、と。
(かなえちゃんは幽霊なんかじゃなかった。よかった。ああでも、ひとりで退屈していたなら一緒にお部屋で遊んであげればよかった)
誤解が解けてホッとした私は「お大事に!」と言ってぺこりと頭を下げ小林家を後にした。
最初のコメントを投稿しよう!