3.真相

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 事件のあらましはこうだ。かなえちゃんの両親は彼女が三歳の時に離婚。母親は実親から譲り受けた家に娘と二人暮らすようになった。だがしばらくして恋人ができ娘を疎ましく思うようになる。 「ま、よくある話といえばよくある話なのか……」  痩せっぽちだったかなえちゃん。きっと満足にご飯ももらえていなかったんだろう。身勝手な母親はこう供述しているという。 ――最後に欲しがっていた服を着せてやって。誕生日だったんです、娘の。  後悔しています、と言っているらしいが今更後悔したところで喪われた命は戻ってこない。それにしてもあの家で起きた異変に誰も気付かなかったのだろうか。それについて母親はこう言っている。 ――あの日は台風がきていて大きな声を出して誰も気付かなかったと思います。ええ、例の大型台風。しばらくはその後始末でみんなよその家のことなんて構っていられませんでしたし。  むかむかしながらテレビを切った。かわいそうなかなえちゃん。台風の日、実の母親に殺されて。 「え、台風の日?」  思わず独り言ちる。あの大きな台風が来たのは私がアパートに引っ越す前の年だ。別の台風のことを言っているのだろうか。ネットで検索してみたが翌年に大きな台風がきた記録はない。私自身、そんな記憶はなかった。詳細を報じるネットニュースでかなえちゃんの生年月日を見て私は凍り付く。 「かなえちゃん……ひとつ年上、だったんだ」  あの日嬉しそうにかなえちゃんはこう言った。 ――わぁ、私も三年生。小林かなえっていうの。  脳裡に彼女の声がこだまする。 ――私、ここを出られないの。  あれはどういう意味だったのだろう。彼女は言った。お友達になりたいの、と。一緒に遊ぼうよ、と。 ――ねぇ、ずっと一緒に。  もしもあの時、彼女の家に足を踏み入れていたとしたら……。一体私はどうなっていたのだろう。 了
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