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Xday
それからというもの大海原くんは俺に距離を置いてる感じで、居酒屋のバイト先で会っても前みたいにしつこく絡んでくる事もなくなった。
離れていくならそれまでと最初はさほど気にはしていなかったのに、最近はなんだか少し寂しい気もする…
今日、もし彼が来なければもう付きまとわれる事もないだろうし、早いところこの変な関係を終わりに出来る。
でも、もし来たら…?
利用するためとは言え、これ以上俺にこだわるような態度をされたら俺の気持ちも揺らぎかねない…
結局、今日まで一言も大海原くんから話しかけられること無く、夜のバイトに向かうことになった。
彼が来ないとなると、また今日もあのオッサンの相手をしなきゃいけなくなるという現実が待っている。
憂鬱で仕方ない気持ちを押し殺して店に向かいながら、いい加減スタッフに言わないと俺が潰れるなと思い覚悟を決めた。
「おはようございます」
「あ、将ちゃんおはよ!今日も指名入ってるよ~!最近調子いいねっ!頑張って稼いでよね~!」
「あ、あの…その指名の人なんだけど…」
「ん?何?なんか問題あんの?」
「あ、いや、ちょっと…」
「なんか初めて見る子だったけど…」
「え…?」
「若い男の子!多分初めてだと思うから優しくしてあげてね~!」
嘘だろ…?
いや待て、だだいつものオッサンじゃないだけで彼とは限らない。
けどなんなんだろうこの感情…
マジで心臓出そうなくらいドキドキしてる。
「失礼します…」
「あ、来ちゃった!」
「お前、何してんだよ…」
「何って、夏川くんが来いって言ったんじゃん」
「いや言ったけど…っ、だってお前、あれから全然絡んで来なかったし…っ」
「やぁ、何か緊張しちゃって…何話していいかわかんなかったから…っ////」
えっ、照れてる…
俺自身、来ることなく終わることを望んでもいたはずなのに、避けられてたわけじゃなかったんだっていう事実に俺の中で張り詰めてた感情が解けたのと、あのオッサンから開放された安堵感で嬉しいのかなんなのか…
とにかくよく分からない感情から、彼の笑顔を見てたらほっとして、すっと力が抜けてしまった。
「え、ちょっ…大丈夫!?」
「へ…?」
「涙…」
「んぇ?あ…っ」
自分でもよく分からないけど、目から勝手に涙がポロポロとこぼれ落ちて止まらない…
持っていたタオルで顔を隠すと、彼が俺の手に触れた。
「何か…あったんですか?」
「…っ、何もねぇよ…」
「俺で良ければ…話、聞くから」
「なんもねぇって…」
「…じゃあどうしたらいい?俺初めてでわかんないから…」
あぁ、そうだ。
そうだよな…
俺が無理やり呼び付けたんだから分からなくて当然だし、それに最初から何かする気なんてさらさらない。
ただ俺は、お前がどういうつもりなのか確かめたかっただけ。
そして、あわよくばあの男から解放してほしかっただけだから。
「あ、うん。えっと…いいよ、なんもしなくていい…俺も何もしないし、金も返すから…」
「え…っ、じゃあ、なんで呼んだの?」
「お前を試した。あぁ言えば離れてくと思ったから。それと…」
「それと?」
「いつもこの曜日のこの時間に…やばいオッサンが俺を指名してくるから、もう…っ、怖くて…っ、もしお前が来るなら会わなくて済むし、だから…っ、お前を利用した…」
「そう…だったんだ…」
「ん…でも来てくれて助かった…ありがとう。だからいてくれるだけでいい…」
俺の感情は多分もう揺らぎ始めている。
優しくしてくれただけじゃない、俺の事を理解しようとしてくれる彼のことが気になり始めてる。
だけどそれを認めたら、俺はまた―――
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